(二)淡緑色の二翼
◆ 淡緑色の二翼
『落ちた』
シアが言った。
「まだ終わってない」
セトは太陽から意識を外さなかった。
表の核が落ちたことと、消滅したことは違う。
太陽の中で再び核が形成され、終焉の炎の肉体まで戻る可能性は残っている。
少なくとも、そこを確かめるまでは帰れなかった。
その時、背後の八枚の翼が大きく揺れた。
赤と黒の輪郭が繰り返し明滅する。
双天・星華に続けて双天・星穿を放った負荷が、セトの精霊回路へ押し寄せていた。
流路の偏りは抑えられていても、通した力の量までは減らせない。
『セト、流れが崩れてる』
「分かってる」
『これ以上維持する必要はありません』
「ああ。二人とも離れてくれ」
二本の精霊剣が光へ変わった。
セトの八翼が消え、右手の赤い光はシアの人型へ戻る。
左手の黒い光もネアの姿を取り戻した。
二人の背にはそれぞれ四翼が開き、十四個の分霊核は七つずつ二人の周囲へ分かれる。
翼を失ったセトの身体が、わずかに太陽方向へ流れた。
「フィオラ!」
「はい!」
待機していたフィオラが飛び込み、淡緑色の光となった。
一本の翔嵐がセトの手に収まり、背中へ二枚の翼が開く。
フィオラの流れが精霊回路へ入り、崩れかけた姿勢を整えた。
この場での二翼の役目は、戦い終えたセトを支え、観測を続けられる状態へ戻すことだった。
『大丈夫ですか?』
「ああ。回路は壊れてない」
『疲労は?』
「ある。でも、観測はできる」
二翼は周囲の原光を循環させ、呼吸に必要な空気と生命維持のための力を補った。
体温と水分も保たれている。
セトは身体の周囲の薄い水膜を保ち、急激な温度変化にも備えていた。
だが、呼吸と生命維持を支えているのは、フィオラの原光循環だ。
人間であることは変わらない。
飲食せずに身体を維持できても、睡眠や精神的な疲労まで不要になったわけではなかった。
「このまま付き合ってくれ」
『もちろんです』
四人は太陽から少し距離を取った。
シアが赤い防御を広げ、ネアが周囲の原光の動きを確認する。
セトはフィオラの二翼で進路を保ち、観測に適した位置へ移動した。
◆ 白い光の内側
太陽は、遠くから見ても視界を白く埋めた。
近づけば、表面とその向こうを見分けることさえ難しい。
まして、落とした核がどのような姿をしているかなど、目で確かめることはできなかった。
セトは光そのものではなく、原光の流れへ意識を向けた。
太陽の内側では膨大な流れが絶えず動き、方向も強さも一定ではない。
そこへ混じった小さな異常を、一つずつ確かめていく。
落とした核の位置も、完全には追えない。
最後に見えた進路を手掛かりに、可能性のある範囲を絞るしかなかった。
太陽がもともと持っている揺らぎを、核の再生と取り違えてはいけない。
小さな乱れが見えても、それが何によるものかを確かめる必要があった。
見つからなければ終わりという話でもない。
確認できない範囲に、まだ核が残っている可能性もある。
「何か分かる?」
シアがセトの横へ来た。
「太陽そのものの流れが強すぎる。まだ、はっきりしない」
「じゃあ、もう少し近づく?」
「近づけば、フィオラの負担も増える。まず、この位置で探す」
ネアはシアと反対の側へ移り、別の方向から原光を追った。
二人の精霊王が感じるものと、セトが精霊回路で捉えるものは完全には同じでない。
だからこそ、一人の見落としを別の者が確かめられる。
しばらくして、セトは一か所で生じた小さな乱れを捉えた。
周囲の流れから少しずれて、原光が同じ中心へ寄っている。
終焉の炎が再生を始める時に見せた動きによく似ていた。
「ここだと思う」
「私も近い位置に乱れを確認しました」
ネアが応じた。
シアは赤い四翼を広げたまま、太陽の方へ身構える。
「また出てくる?」
「分からない。でも、これが表の核なら、再生しようとしてる」
セトは視線を動かさずに答えた。
ここで再生を確認したとしても、作戦が失敗したことにはならない。
問題は、核が太陽の中で形を保てるかどうかだった。
※第67話「太陽へ落とす」は全七回です。
続きます。
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