(三)二本の四翼精霊剣
◆ 二本の四翼精霊剣
シアとネアがセトの前へ並んだ。
二人の背中には、それぞれ赤と黒の四翼が広がっている。
その奥では小さな赤い塊が再生を続けていたが、まだ次の砲撃を放てる姿ではない。
「まだできるか」
「誰に聞いてる」
シアの赤い四翼が強く光った。
「一年戦っても、まだ足りないくらいだ」
「私は少し休みたいところですが」
ネアの黒い四翼も広がる。
「今休めば、さらに長引きかねません」
「なら、来てくれ」
セトが両手を差し出した。
フィオラはセトの腕を支えたまま、二人が近づける位置を保つ。
シアとネアの身体が同時に光へ変わった。
赤い光はセトの右手へ。黒い光は左手へ。
二本の四翼精霊剣、極炎と絶光が握られる。
二人の背にあった翼が消えた。
次の瞬間、セトの背後へ赤と黒の光があふれる。
八枚の半透明な翼が開いた。
火の循環と月の循環は混ざらず、別々のままセトの精霊回路を通っている。
フィオラがそっとセトの腕を離した。
八翼がセト自身の姿勢と進行方向を安定させる。
七つの赤い分霊核と、七つの黒い分霊核が集まってきた。
シアは赤を、ネアは黒をそれぞれ動かし、セトの周囲へ配置する。
十四の射点がそろった。
以前と同じ数、同じ二本の剣だ。
それでも、セトを通り抜ける力の流れは、以前とは少し違っていた。
◆ 異様に自然な流れ
『なんか、流れが異様に自然だ』
右手の極炎から、シアの声が伝わった。
「俺も地上で遊んでいたわけじゃない」
以前の八翼でも、二人から流れ込む力を調整していたのはセトだった。
シアとネアでは、流れる速さも、精霊回路へ加わる負荷の形も違う。
どちらかを基準に道を固定すれば、もう一方の流れが詰まる。
十四個の分霊核へ力を分ければ、さらに複雑になる。
セトは二人から入る量を読み、一方を絞り、もう一方へ道を譲っていた。
それぞれの分霊核へ分配するたび、流路の幅まで調整しなければならない。
できてはいたが、一つ一つに意識が必要だった。
大きな攻撃の後では、その調整が追いつかなくなる。
水の精霊王による再調整の後は違った。
シアの流れが増えれば、その側の道が広がる。
ネアの流れが別の場所へ回れば、空いた経路がそちらへ移る。
急激な負荷は一か所へ集中せず、回路全体へ分散する。
異なるものを、異なるまま通せる。
『確かに以前とは違います』
左手の絶光から、ネアの声が伝わった。
『流れが強くなったわけではありません。セトの回路が、こちらへ合わせて形を変えています』
「出力自体は上がってない」
『でも、前より長く使える?』
「ああ。それと、十四個を動かしたままでも、別の制御に意識を回せる」
赤い分霊核の一つが上へ動く。
同時に黒い分霊核の三つが別方向へ広がり、残りは位置を保った。
動かしたのはシアとネアだが、二本の剣から伝わる流れはセトの回路を無理なく通っている。
『一年分は、ちゃんとあるみたいだな』
「おまえたちの一年には負ける」
『当然』
◆ 十四の射点
セトはシアへ右側の三つを、ネアへ左側の四つを動かすよう伝えた。
赤い分霊核が弧を描き、黒い分霊核がその隙間を抜ける。
残る七つはセトの周囲から動かない。
全体の配置が変わっても、赤と黒の流れは別々に維持された。
『この位置でいい?』
「ああ。次は赤の二つを戻してくれ」
『戻した』
『こちらの四つは、もう少し広げますか』
「いや、そのまま。今度は力を少し増やしてくれ」
黒い流れの量が増えた。
セトの回路が、それを受け入れる形へ変わる。
以前なら右側の道を絞ってから、左側を広げなければならなかった。
今は左右の流れを止めずに済む。
地上で扱っていた十四個の水球は、何の意思も持たない代用品だった。
目の前の分霊核は違う。
動きの指示に応じて位置を変えるだけでなく、シアとネアがそれぞれ出力を制御している。
セトが担当するのは、その二つの力をぶつけずに受け止め、全体の射線と負荷を見続けることだった。
「フィオラ、今の動きはどう見えた?」
「はい。赤も黒も、途中で止まっていません」
離れて待機するフィオラが答えた。
確認できるのは分霊核の動きだけではない。
セトが八翼を保ったまま、周囲を見て話す余裕まである。
「今なら、誘導しながら次の攻撃を準備できる」
『前はそれだけで精いっぱいだったのに』
「ああ。だが、無制限に使えるわけじゃない」
セトは敵へ目を戻した。
四翼二人の出力が増えたわけではない。
扱える時間と、同時に考えられることが増えたのだ。
その差が、次の作戦に必要だった。
※第66話「表の核、裏の核」は全七回です。
続きます。
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