(二)数えなかった時間
◆ 数えなかった時間
「それと、先に伝えておくことがある」
セトはシアとネアを交互に見た。
「おまえたちが戦い始めてから、もう一年近く経ってる」
「一年?」
シアが目を見開いた。
「そんなに戦ってた?」
「正確な日数は、私たちには分かりません」
ネアは周囲を見渡した。
地上の朝や夜は、二人にとって戦闘を区切るものではない。
眠る必要もなく、再生する終焉の炎を削り、反撃を避け、また削る。
それを繰り返してきた。
遠くに見えていた星や惑星の位置は変わっている。
戦場そのものも、何度も大きく移動した。
長期間戦っていることは分かっていたが、地上の時間でどれほどなのかは数えていなかった。
「地上から、毎日観測していた」
セトが言った。
「まだ一年には届いていない。でも、もう一年近い」
「毎日?」
「三つの光が残っているか確かめていた」
終焉の炎の赤。シアの赤。ネアの黒。
地上の天文設備からは、どれも小さな光にしか見えなかった。
ほかの国の記録も集め、見失った時間は見失ったまま残した。
「消えたように見えた日もあった。次の観測では、また三つに戻っていた」
「それは、私たちが大きく削った時ですね」
ネアが終焉の炎へ目を向けた。
「たぶん」
シアは短く答えた。
同じような攻撃を何度も繰り返している。
地上の記録がどの一撃を捉えたものなのかは、二人にも分からなかった。
「私たちが一年近く戦ってる間、何をしてた?」
「観測と訓練だ」
「それだけ?」
「水の精霊王にも、回路を再調整してもらった」
「ヴァルナが?」
「ああ」
終焉の炎の残骸から、細い赤い筋が伸び始めた。
まだ身体の形にはなっていないが、中心へ集まる原光は増えている。
セトはその変化を確かめ、シアとネアへ手を向けた。
「先に八翼になる。説明はそのまま続ける」
右手の精霊剣を少し持ち上げる。
「フィオラ。ここまでありがとう」
『はい』
◆ 二翼の役目
淡緑色の精霊剣が光へ変わった。
セトの背中にあった二枚の翼が消える。
代わりに、人型へ戻ったフィオラの背中へ淡緑色の二翼が開いた。
フィオラはすぐにセトの腕を取り、宇宙空間で姿勢を整えた。
精霊剣の接続が切れたセトは、自力で進行方向を変えられない。
薄い水の膜は身体の保護に使えても、それだけで宇宙を飛べるわけではなかった。
フィオラの翼が周囲の原光を循環させ、セトの身体を維持しながら二人の位置を保つ。
「八翼になるまで支えます」
「頼む」
「八翼になった後は?」
「攻撃の射線から離れて、少し後ろをついてきてくれ」
「分かりました」
フィオラはセトの身体が安定していることを確かめた。
目の前では、終焉の炎の中心から赤い筋が一本ずつ伸びている。
近づけば危険だと分かっていても、今は八翼を成立させる位置から離れられない。
フィオラの二翼でも戦闘はできる。
だが、七つの分霊核を持つシアとネアと同じ数の砲撃はできない。
この場で必要なのは、四人目として攻撃を増やすことではなかった。
セトを戦場まで運び、二人へ渡し、その後も待機する。
その仕事を終えてからも、次にセトを支える時が来るかもしれない。
「再生は?」
セトが尋ねる。
「まだかかる」
シアは赤い塊を見た。
「星華でほとんど吹き飛ばした。中心にあった部分だけは先に戻ったみたいだけど、身体は遅い」
「中心だけが先に戻るのは、これまでと同じです」
ネアが補足した。
セトは終焉の炎の中心を見続けた。
「やっぱりそうか」
※第66話「表の核、裏の核」は全七回です。
続きます。
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