(一)星の外へ来た人間
◆ 削り落とされた炎
赤と黒の光が収まった後、そこに終焉の炎の巨体は残っていなかった。
頭部も、胸部も、四枚の翼もない。
宇宙空間へ散った赤い破片が、遠ざかりながら薄れていく。
中央には、燃え残った塊だけがあった。
それも、以前の巨体と比べればあまりに小さい。
シアとネアが放った即席の双天・星華は、終焉の炎をほとんど消し飛ばしていた。
セトを介さず、それぞれの八門を同時に撃ち込んだ一撃だ。
赤い火が肉体を崩し、黒い月が切り離された組織から原光を奪った。
しかし、十六の射点が通り過ぎても、完全には消えていない。
小さな赤い塊の内側へ、周囲の原光が集まり始めていた。
失った肉体が多いだけに、元の巨体へ戻るまでは時間がかかる。
それでも再生は、確かに始まっている。
シアは七つの分霊核を自分の周囲へ戻した。
ネアの七つの分霊核も、黒い四翼の内側へ集まっている。
二人とも、すぐには次の砲撃を放たなかった。
「また戻る」
「ええ。今ならもう一度大きく削れますが、その後も同じでしょう」
「じゃあ、どこまで削ればいいんだ」
答えは出なかった。
どれほど広く削っても、どれほど深く貫いても、終焉の炎は再生する。
その繰り返しに、終わりは見えなかった。
それでも二人は終焉の炎から目を離さず、次の動きに備えていた。
「来ます」
ネアが、終焉の炎とは違う方向へ顔を向けた。
暗い宇宙の中から、淡緑色の光が近づいている。
◆ 近づく二翼
淡緑色の光は二つに分かれ、細長く伸びていた。
周囲の原光を取り込みながら、進む方向をそろえている。
二枚の精霊翼だった。
「フィオラ?」
シアが目を細めた。
翼の根元に人影がある。
宇宙の戦場へ自分たち以外の者が来るとは考えていなかった。
一方、セトには、遠くにあった赤と黒の光がようやく人の姿として見え始めていた。
フィオラの翔嵐を握り、二翼が示す進路を少し修正する。
向かう先には赤い四翼と黒い四翼。
そして、その二人の間から離れた場所に、ごく小さな赤い塊が残っている。
『あれが終焉の炎ですか』
「たぶんな。ずいぶん小さくなってる」
『近づくほど、集まっている原光が見えます』
「なら、まだ終わってない」
セトは出発前に書き込んだ予想到着位置を思い出した。
観測した時刻から戦場が動くことを見込み、進路は何度も修正してきた。
最後の移動でも、光の位置が急に変わった。
その直後に巨体の姿が見えなくなったのだから、二人が大きな攻撃を放ったのだろう。
今はその理由を確かめるより、二人へ合流する方が先だった。
セトが進路を示すと、フィオラは二翼の向きをそろえた。
終焉の炎へ真正面から近づかず、シアとネアがいる側へ回る。
赤い塊が再び大きくなる前に、四人の距離が縮まっていった。
◆ 星の外へ来た人間
淡緑色の二翼が力を弱めた。
終焉の炎から少し離れた位置で止まり、セトは燃え残った赤い塊を見た。
その後、赤い四翼と黒い四翼へ視線を向ける。
「間に合った」
「なぜ来た! 正直足手まといだ!」
シアの声が飛んだ。
顔には驚きと、わずかな安堵がある。
しかし、それより先に出てきたのは制止だった。
終焉の炎の砲撃を一度でもまともに受ければ、人間のセトは防御する間もなく消える。
フィオラの二翼がセトを支える。
その外側に、ネアも黒い原光の薄い膜を重ねた。
再会を喜んでいる間にも、敵は原光を取り込んでいる。
「この戦い。永遠に決着がつかない」
セトは赤い残骸を見ながら答えた。
まだ四翼も砲口も戻っていないが、中心へ集まる原光は増えていた。
何度削っても終わらない。
地上で積み重ねた観測記録にも、その事実だけは繰り返し残っていた。
「フィオラがいれば形勢が変わると?」
「いや、変わらないどころか、シアの言うように足手まといだ」
『セトさん』
右手の翔嵐から、フィオラの声が聞こえた。
『事前に聞いていましたが、本人を前にして言わなくてもよいのではないでしょうか』
シアが一瞬、セトの右手を見た。
ネアは、そのやり取りを遮らずに続きを待った。
「ならなぜ?」
「太陽が近い。やつをあそこに落とす。ただ、二人だけでは押し切れない」
ネアの視線が、終焉の炎の向こうへ移った。
大きく白い太陽が、周囲の暗闇を押し退けるように輝いている。
地上では伏せていた結論を、セトはようやく二人へ伝えた。
「そのための八翼ですか」
「ああ」
※第66話「表の核、裏の核」は全七回です。
続きます。
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