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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第65話 一年の戦い

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(六)星の外へ

◆ 再生の記録


 セトは一年近い報告書から、赤い光が大きく弱まった日だけを抜き出した。

 並べた紙には、最初の位置、明滅の長さ、その後の確認時刻が書いてある。

 どの夜にも同じ記録があるわけではない。

 光が見えなかった時間を、巨体が消えていた時間と同じにはできなかった。


 だから、確実に弱まった時刻と、再び確認された時刻を別々に並べる。

 フィオラも隣に座り、紙の向きを合わせた。


「この日は、赤い光がほとんど分からなくなっています」

「翌日には戻ってる」

「別の国でも確認されています。位置も大きく離れていません」

「やっぱり、あれだけ削っても戻るんだな」


 セトはもう一枚をめくった。

 強い赤と黒の明滅が重なった後、終焉の炎の光が弱くなった日だ。

 次の記録では、その光が再び現れている。

 削った部位や攻撃の種類までは分からない。


 だが、戦闘の規模を変えても決着したという報告は一つもなかった。

 観測できなかった空白を、勝利や敗北で埋めるつもりはない。


「もっと大きく撃てば、いつか消せると思ってた」

「シアさんとネアさんは、もう何度も大きく削っているはずです」

「ああ。それを一年近く続けてる」


 セトは、再び光が確認されるまでの時間を追った。

 何度壊しても戻る。

 同じ場所を貫いても戻る。

 二人が同時に全身を削っても戻る。


 今までと同じ戦い方を続ける限り、結果も変わらない。

 セトは星図を引き寄せ、戦場が通ってきた軌跡を指でなぞった。

 位置を示す印のひとつで、その指が止まる。


「これしか方法がないか」


 フィオラが顔を上げた。

 セトはまだ、考えた内容を説明しなかった。


◆ 戦場へ行く


 翌日、セトは訓練室で十四個の水球を浮かべた。

 右と左へ異なる量を送り、一方だけ急に増やす。

 十四個の位置をばらばらに変えても、流れは途切れなかった。

 以前のように、一か所が詰まるたび全部を直す必要はない。


 水球を戻し、セトは最後のひとつを消した。

 自分が用意できる部分は、ここまでだ。


「フィオラ」

「はい」

「オレを戦場まで運べるか」


 フィオラはすぐには答えなかった。

 壁に広げられた星図を見て、戦場の位置を確かめる。

 今いる場所からは、遠く離れている。

 しかも戦場は、観測した時と同じ場所に留まっているわけではない。


「二翼で戦うことを求めているのではありませんね」

「ああ」

「私には分霊核がありません。シアさんとネアさんが一年近く戦っている場所で、私が加わっても足手まといになると思います」

「戦う必要はない。運んでくれればいい」

「到着するまでに、戦場も移動します」

「一年分の記録から進む先を予測する」

「大きく方向を変えた場合は?」

「途中で直す」


 フィオラは星図の線を指でたどった。

 二翼は八翼のように攻撃を重ねる形ではない。

 だが、セトを運び、一つの方向へ長く進むなら役に立つ。

 セトが飛行の途中で周囲を見ることも、戦場へ近づく位置を調整することもできる。


 ただし、二人が到着するまで戦いが続いていることが前提だった。


「分かりました。セトさんを連れていきます」


 セトは報告書をまとめた。

 一年間書き続けた数字は、二人がどこへ進むべきかを示している。

 今まで星図の上で追うしかなかった三つの光へ、ようやく自分から近づくことになる。

 あとは、その場所へ行くだけだった。


◆ 星の外へ


 出発の日、空はよく晴れていた。

 観測筒は太陽に近い戦場へ向けられていたが、三つの光すべてが見えるわけではない。

 セトは一年近く書き続けた報告書へ、出発時刻と予想到着位置を記した。

 最後の紙を重ね、机の上へ置く。


 次の戦況は、報告書ではなく自分の目で確かめることになる。

 フィオラがセトの前へ進み、手を差し出した。


「セトさん」

「ああ。頼む、フィオラ」


 フィオラの淡緑色の身体が光へ変わった。

 風の精霊剣、翔嵐がセトの手に収まり、背中へ二枚の淡緑色の翼が開く。

 翼の周囲に原光が集まり、進む方向へ流れ始めた。

 その循環は、セトの身体にも生命維持に必要な力を届けている。


 セトは身体の周囲へ薄い水の膜を作った。

 外界の急激な温度変化を和らげ、身体を保護するための補助だ。

 水を扱う流れと、翔嵐が作る風の流れが、異なるまま精霊回路を通る。

 ヴァルナが再調整した回路は、負荷の変化に合わせて静かに形を変えた。

 どちらの働きも妨げない。


『準備できました』

「行くぞ」


 二翼が強く光った。

 地面が遠ざかり、雲が眼下へ流れていく。

 青かった空が薄れ、やがて暗い宇宙が広がった。


 セトは地上を振り返らず、進路の先を見た。

 目指すのは今観測できる光の位置ではない。

 一年近く移動を続けた戦場が、自分たちの到着時にいるはずの場所だった。

 セトは星図の予測と目の前の光を比べながら、フィオラの二翼へ進む方向を与えた。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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