(二)仕上がり
◆ 山の修行場
山道の先で、木々が途切れた。
岩壁に囲まれた広い場所がある。
古い小屋。
斬撃の跡が無数に残る石柱。
地面には、長年踏み固められた円形の稽古場。
だが、今はその中央に何人もの人が倒れていた。
「じいさん!」
セトが走る。
白刃を持った男が、膝をついている。
少し離れた場所には、黒刃を地面へ突き立て、辛うじて倒れずにいる女。
どちらの剣も形が薄い。
精霊力を保てていない。
さらに奥で、祖父が木剣を杖代わりに立っていた。
木剣の半分は焼け落ちている。
その正面に、グラウスがいた。
赤黒い魔剣を片手に持っている。
刀身の中では、吸い取られた光が炎へ変わり、ゆっくりと混ざり合っていた。
「来たか」
グラウスがセトを見る。
続いて、シアへ視線を移す。
「手紙に嘘があったので、少し待たせてもらった」
◆ 奪われかけた力
「何をした」
セトが倒れている者たちを見る。
「剣を交えただけだ」
「立てないほど力を奪ってか」
「魔剣を相手に、精霊術の剣を押し当て続けたのは彼らだ」
白刃を使っていた男の手が震える。
剣を消そうとしているが、うまく形を解けない。
魔剣に引かれ、残った精霊力まで吸われている。
セトは男の白刃へ黒刃を触れさせた。
白い刀身が崩れる。
魔剣へ続いていた力の流れが切れた。
男がその場へ倒れた。
「意識はある」
シアが近くの女を見た。
「だが、ほとんど力が残っていない」
「殺してはいない」
グラウスが言う。
「お前たちが来る前に死なれても困る」
「この人たちを、俺たちが来るまで生かしておいたのか」
「違う」
グラウスはシアを見たまま答えた。
「必要なのは一人だけだ」
◆ 一族の問題
「セト」
祖父が呼んだ。
声はかすれている。
「なぜ来た」
「紙を残しておいて言うな」
「村へ戻れ」
「今の状態で勝てるのか」
「これは一族の――」
「同じことが書いてあった」
セトは祖父の言葉を遮った。
「封印を守れなかったのは、分かれた血筋だ。魔剣を残したのは、もっと昔の一族かもしれない」
「ああ」
「だから、一族だけで決着をつけるつもりだったのか」
「そうだ」
「シアから奪われた火まで、一族のものか」
祖父は答えなかった。
「グラウスが待っているのは、俺とシアだ」
「だから来るなと言った」
「俺たちが来なければ、次は村へ来る」
グラウスが小さく笑った。
「よく分かっている」
セトは祖父の前へ出た。
「後ろへ下がってろ」
「それは私の言葉だ」
「今は俺がやる」
◆ 仕上がり
グラウスは、セトの空いた両手を見た。
「今回も、一本ずつ使うつもりか」
「いや」
セトは右手を開いた。
白い光が集まり、白刃を作る。
同時に左手。
周囲の光が押しのけられ、黒刃が現れた。
二本を同時に構える。
グラウスの目がわずかに細くなる。
「使うことにしたか」
「ああ」
「その少女も、少しは戻ったらしい」
シアの手に、小さな炎が生まれていた。
グラウスは二人を交互に見る。
「そろそろ、いい具合に仕上がってきたか?」
「精霊剣のことか」
シアが尋ねた。
グラウスは否定しなかった。
「知ったのか」
「お前が何を待っているかも分かった」
「なら、話が早い」
「わたしを魔剣にするつもりか」
「精霊剣として残る器には興味がある」
シアの火が強くなる。
「お前のために剣にはならない」
「私のためである必要はない」
グラウスの視線がセトへ移る。
「その人間を信じればいい」
※第10話「再戦」は全六回です。
続きます。
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