(三)兵器ではないもの
◆ 兵器ではないもの
一か月が過ぎた。
二か月が過ぎても、宇宙の三つの光は消えなかった。
ローディア王国では、亡命研究者たちへ終焉の炎の停止方法を問い続けていた。
研究者たちは起動条件と使用した設備を説明できる。
しかし、すでに起動した巨体へ命令を届ける手段は示せなかった。
進行方向を変える方法も、砲撃を止める方法もない。
設計の一部を再現しても、宇宙にいる終焉の炎は変わらず動き続けている。
国が期待していた抑止力は、誰にも命令できないまま空を進んでいた。
各国の観測記録は、強力な砲撃が繰り返し放たれていることを示していた。
二人の四翼精霊王が長期間攻撃を続けても、終焉の炎を消せていない。
その光が地上へ向けば、どこが被害を受けるか分からない。
受け入れた国だからといって、終焉の炎が攻撃を避けてくれるわけでもなかった。
兵器は、使う側が向きを決められてこそ兵器になる。
向けられず、止められず、遠ざけることもできないものでは、ほかの国への牽制にも使えない。
ローディア王国は研究資料と機材を押収した。
研究者たちは外部との接触を禁じられ、一人ずつ拘束される。
やがて、亡命していた研究者たち全員が投獄された。
届いた知らせをフィオラが机へ置いた。
「受け入れた時には、使えると思っていたのでしょうか」
「使えるかもしれないと思った」
「今は?」
「自分たちにも止められないと分かった」
セトは星図に目を戻した。
紙の上では、終焉の炎は小さな赤い印にすぎない。
その印を自分の意思で動かせないと分かった時、一国の判断は変わった。
空の戦いは遠くても、地上の出来事を確実に動かしていた。
◆ 十四の流れ
セトが観測を終えた後に向かうのは、施設の訓練室だった。
空いている床の中央へ立ち、水の精霊術を使う。
手のひらほどの水球が、ひとつ、またひとつと浮かび上がった。
右側へ七つ、左側へ七つ。
シアとネアの分霊核を合わせた数と同じ、十四個だ。
水球には分霊核の力も意思もない。
それでも、違う場所へ違う量の流れを送る練習にはなる。
セトは水の流れを二つに分け、十四個の位置をそれぞれ動かした。
右の七つは縦に、左側の七つは大きな弧へ。
次に、右の一つだけを速く動かし、左の三つへ送る量を増やす。
「始めますね」
「ああ。いつでもいい」
フィオラが横から風を通した。
十四個の水球が一斉に軌道を外れる。
セトは右端を止め、左の二つを上へ戻す。
その間に、後ろへ回った三つがさらに離れた。
ひとつを戻せば別のひとつが遅れる。
セトは回路の中の流れを細く分け直し、進行方向を一つずつ修正した。
十三個が元の位置へ戻る。
最後のひとつだけが、床へ落ちて水を跳ねさせた。
「一つ落ちました」
「分かってる。さっきより長く持ったんだがな」
「最初の風には全部反応できていました」
「その次が遅れた。十四の動きを見ながら、流れまで調整してるからな」
セトは水を集め直し、もう一度十四の球へ分けた。
光の精霊王との戦いでも、終焉の炎との再戦でも、セトは二本の四翼精霊剣から流れ込む異なる力を受け止め、制御していた。
さらに十四の分霊核を扱いながら、八翼そのものも維持しなければならない。
その制御が遅れれば、二人の攻撃にも影響する。
あの限界を少しでも遠ざけるため、今は水球を落とさない訓練を続けていた。
◆ 代用品の限界
何度も訓練を重ねるうちに、風を受けても十四個を落とさない日が増えた。
セトは同じ動きを続けるだけでなく、途中で流れの量を大きく変えてみた。
右側の七つへ一気に水を送り、その間、左側は細い流れを保つ。
さらに左の一つへ力を集中させる。
水球の位置だけなら変えられる。
だが、回路の中央を通る流れが急に増えた瞬間、右と左の調整が一拍遅れた。
水球は落ちなかったものの、狙った位置に止まれない。
操作の正確さとは別の問題が残っていた。
「今日は全部残っていますね」
「落とさないだけならな」
「予定した場所からは、少しずれています」
「大きい流れを通した時、道が詰まる。そこで調整してる間に遅れるんだ」
フィオラは水球の位置を確かめ、訓練の最初に付けた印と比べた。
力を送る量が一定の時は、ずれが小さい。
急に増減させた時だけ、複数の水球が連動して遅れていた。
しかも、実際の八翼とは条件が違う。
水球にはそれぞれの意思がなく、火と月のような異なる性質もない。
シアとネアがいなければ、二本の四翼精霊剣を同時に握ることすらできない。
「これだけで、八翼を長く使えると分かるわけじゃないな」
「ですが、少なくとも遅れる条件は見つかっています」
「ああ。そこを直せれば、次は違う」
セトは水球を止めた。
十四個を扱う腕前だけなら、訓練を始めた時より上がっている。
それでも、同じ十四個に違う速さの流れを送り続けると、精霊回路の内側に負担が偏った。
その問題をどう扱えばよいのか、まだ答えはなかった。
セトは翌日の訓練項目に、流れが急変した時のずれを加えた。
※第65話「一年の戦い」は全六回です。
続きます。
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