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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第65話 一年の戦い

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(二)五つの国の空

◆ 五つの国の空


 同じ三つの光を見上げているのは、エルディナ王国だけではなかった。

 東のローディア王国、西のヴァレスト王国、北のグレニア王国、南のサルネア王国。

 五つの国は、それぞれの天文設備を宇宙の戦場へ向けていた。


 国によって設備の精度は違う。

 同じ時刻でも、雲や太陽の位置によって見える光が異なる。

 ある国では二つしか確認できなかった夜に、別の国では三つとも記録できたこともあった。

 持ち寄った数字を並べれば、一か所の観測では見落とした変化が浮かび上がる。


「西の記録だと、この光が少し右に見えるんですね」

「見てる場所が違えば、位置も違う」

「では、二つの記録を同じ線へ直してみます」


 フィオラは星図の向きを合わせ、別々の紙に付けられた印を一枚へ写した。

 時刻がずれている記録を同じ瞬間の出来事として扱わないよう、線の引き方にも気を配る。

 セトは、戦場そのものが一方向へ進み続けていないことを確かめた。

 激しい光の後で折れ、また別の方角へ曲がる。

 星から遠ざかってはいても、戻ってこない保証にはならない。


「各国とも、同じものを追っているんだな」

「でも、危険だと感じる理由は少しずつ違うかもしれません」

「戦場が近づく方角が違うからか」

「はい。国境に関係なく、あの光は届きます」


 五か国が同じ国になったわけではない。

 すべての判断を一つにまとめたわけでもない。

 ただ、観測した結果を重ねなければ、自分の国へ近づく危険さえ判断しにくかった。


 星図に残る三つの点は、どの国の上空にも属していない。

 だからこそ、それぞれの国が追い続けることになった。


◆ 射線の先


 ある日の報告では、終焉の炎と思われる赤い光が細く、長く伸びていた。

 一度光が現れると、途切れず同じ方向へ続き、その途中で伸びる方向が変わっている。

 セトは巨体がどのような攻撃を使っているかまでは知らない。

 それでも、短い一撃で終わらない光があることは、記録から読み取れた。


 フィオラは別の国から届いた星図を重ね、その光が伸びた方向を確かめる。


「この向き、星からは外れています」

「今はな」

「次も外れるとは限りませんね」

「ああ。あいつが向きを変えれば、光の先も変わる」


 巨体の腕が山を削った時、避けた先に何があるかを敵が気にする様子はなかった。

 宇宙でも同じだと考えれば、地上は安全になったのではない。

 射線から外れている間だけ、攻撃を受けずに済んでいる。


 セトは、星図に描かれた細い線を指で延ばした。

 紙の上では一本の印でしかない。

 実際には、国一つが狙われたとしても防ぎようのない規模かもしれなかった。


「三体とも、あの規模の光を出せる」

「シアさんとネアさんは地上を狙いません」

「分かってる。でも、戦場の向きまで思いどおりにできるとは限らない」


 フィオラは黙って星図へ新しい印を付けた。

 国が恐れているのは、今ここを撃つという宣言ではない。

 誰も地上を狙わなくても、戦いが続く限り危険な方向へ光が向く可能性があることだった。


 ある国では戦場が星から離れたことを喜び、別の国では次の進路を恐れる。

 同じ報告書を読んでも、安堵と警戒が同時に生まれる。

 セトはその両方を理解した。

 そして、三つの光がまだ消えていないことを、再び記録した。


◆ 成功を持ち出した者たち


 終焉の炎が起動した時、製造に関わった研究者たちは二つに分かれた。

 設計図の内容を実際には起動できないものと考えていた研究者たちは、動き出した巨体を見て恐れた。

 彼らは現場に残り、自分たちが何を組み上げたのかを理解しようとした。


 一方、古代設計図の記述を再現し、条件を満たして起動したことを成果だと捉えた者たちもいた。

 そちらの研究者は設計資料、実験記録、起動までの研究成果を持ち出し、東のローディア王国へ逃れた。

 ローディア王国は彼らを受け入れた。


 四翼の精霊王や八翼に対抗する技術が手に入るなら、それを求める理由はある。

 同じものを製造できなくても、発掘された知識の一部が国家の力になるかもしれない。

 研究者たちも、自分たちが持ってきた成果にはそれだけの価値があると主張した。


 巨大な生体兵器を動かしたという事実だけは、嘘ではない。

 受け入れた側も、その先の制御方法まで確かめる前に、使い道を考えていた。


「兵器として使えると考えていたんですね」


 フィオラが届いた報告書を読んだ。


「使えるなら、ほかの国は簡単に攻められない」

「でも、あれは今も宇宙で戦っています」

「そこが問題だ。動くものを作れたのと、使えるものを作れたのは別だからな」


 セトは設計資料の一覧へ目を落とした。

 自分たちが現場で聞いた話にも、終焉の理や神の目という名称はあった。

 だが、名前が分かることと、働きを理解していることは違う。


 起動に成功した研究者たちが、停止まで可能だと証明した記録はなかった。

 その空白が、やがて受け入れた国自身の判断を変えることになる。



※第65話「一年の戦い」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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