(六)横から来る黒
◆ 狙われた赤
終焉の炎が、ネアへの砲撃を止めた。
胸部へ集めた原光は失われていない。
大型砲口を支える肉体が大きく動き、巨体そのものが急激に回転する。
赤い砲口はネアから外れ、脇腹を削り続けていたシアを正面に捉えた。
シアの四門は攻撃の直後で、まだ次の火を集めている。
「シア! 離れてください!」
「近い!」
シアは左右へ残していた分霊核を動かした。
身体を押して、砲口の正面から抜けようとする。
しかし、終焉の炎の巨体が大きく向きを変えた分、射線も急に近づいていた。
砲口の奥では、収束した赤い光がもう細い一点となっている。
逃げる方向へ四翼を傾けても、その前に光が届く。
シアはすぐに判断を変えた。
「避けられない。受ける!」
「受け止め続けてはいけません! 動ける位置を残して!」
ネアの声が届いた時、胸部から一本の赤い光束が伸びた。
シアは攻撃へ向けていた分霊核まで呼び戻す。
七つすべてを身体の前へ並べた。
いまさら攻撃を続けても、砲口を壊すより先に自分が貫かれる。
最初の分霊核が赤い防御壁を作り、その後ろへ残る六つが一直線に重なる。
光が壁の中央へぶつかった。
最初の衝撃で防御の表面が大きくへこむ。
「持って!」
シアは四翼から原光を送り、前方へ力を集めた。
収束砲は短い一撃ではない。
受け止めている間も、赤い光が同じ場所へ流れ込み続けている。
シアは自分の身体を動かせる隙を探した。
だが、壁を少し傾けるだけで、光が横へ回り込もうとする。
そのまま動けば、防御の外から身体へ届くかもしれなかった。
◆ 七つの盾
最前列の防御壁に、細い亀裂が走った。
シアは壁を厚くするために原光を送り続ける。
しかし、終焉の炎の収束砲は弱まらない。
最初の壁が砕けると、後ろの分霊核が新たな壁を広げた。
光束の先端は途切れず、二枚目の中央へ食い込む。
防いでいる間にも、砲口はシアの位置へ向けられたままだった。
「まだ、いける!」
二枚目も破られた。
シアは三枚目を広げ、少しでも横へ出られないか四翼の向きを変える。
だが、身体が動いた分だけ砲口も追ってくる。
三枚目の壁は中央が薄くなり、続けて四枚目へ衝撃が伝わった。
分霊核による防御の形が壊れても、分霊核そのものが消えたわけではない。
それでも、今は作り直す時間がない。
後ろに残した壁で受け止めるしかなかった。
五枚目が現れた時、シアは砲撃に使うための原光まで防御へ回した。
赤い四翼が強く光る。
五枚目が押し潰され、六枚目が大きく歪んだ。
光束の太さは変わらない。
防御が薄くなるほど、赤い線はまっすぐシアへ近づいてくる。
「まだ!」
七枚目の壁が開いた。
最後の分霊核が作る壁へ、終焉の炎の収束砲が食い込む。
シアは、次に備えて自分の周囲へ火を集め始めた。
もう後ろに分霊核はない。
七枚目にも亀裂が走り、壁の中央から赤い光が漏れ出す。
シアは四翼の出力を前面へ寄せ、火の層を重ねた。
自分で受けるしかない。
最後の壁が砕けた。
継続する赤い光束が、シア自身の防御へ到達した。
火と火が正面からぶつかり、シアの姿が赤い光の中へ隠れた。
それでも砲撃は終わらない。
シアは自分の防御が削られるのを感じながら、まだ射線を外れる場所を探していた。
◆ 横から来る黒
ネアの視界から、シアの姿が消えた。
終焉の炎の収束砲が、同じ場所へ赤い光を送り続けている。
砲口を壊すために残していた黒い射点を、ネアはすべて自分のもとへ戻した。
かつて原初戦では、弱った火の精霊王は攻撃を重ねる相手だった。
今は違う。
あそこからシアを動かすために、先に自分が動かなければならない。
「シア!」
黒い四翼が大きく開いた。
ネアは赤い砲口の正面へ出ず、光束に捕まっているシアの真横へ回る。
防御を重ねて砲撃を押し返す時間はない。
相手が一つの射線へ力を集めているなら、その射線から身体を外せばいい。
黒い分霊核が短く原光を流し、ネアの身体を横から加速させた。
ネアは赤い光の縁へ飛び込む。
「こっちです!」
ネアの身体がシアへ激突した。
抱えてから動かすのでは遅い。
自分ごと横へ押し飛ばす。
赤と黒、二人の身体が一緒に収束砲の外へ抜けた。
途切れない赤い線は、そのまま暗い宇宙の彼方へ伸びていく。
ネアは黒い四翼を大きく広げ、二人に残った勢いを分散した。
シアの赤い四翼は残っている。
七つの分霊核も失われてはいなかった。
ただ、身体を覆う火の防御は大きく削られている。
「動けますか?」
「動ける。……助かった」
「礼はあとです。まだ砲口が残っています」
「分かってる」
ネアはシアから少し離れ、黒い七核を広げた。
収束砲が止まったわけではない。
敵が向きを変える前に、こちらも次の攻撃を始める必要があった。
「シア! 合わせなさい!」
その声の意味を、シアはすぐに理解した。
細かく説明されなくても、何を狙っているのか分かった。
※第64話「宇宙の膠着」は全七回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/




