(三)返される星雨
◆ 肉体に開く砲口
終焉の炎が腕を下ろした。
次の一撃へ備えているように見えたが、拳へ集まっていた原光は胸部へ戻っていく。
再生の途中で止まっていた肉体が、急に別の形へ盛り上がり始めた。
胸、肩、腹。
傷を塞いでいたはずの組織が、一つずつ丸く窪んでいく。
赤い筋がその奥へ伸び、窪みの中心へ原光を送り込んでいた。
「何か作ってる」
「離れてください。あの形は、ただの再生ではありません」
シアは巨体の右へ回った。
ネアは反対側へ離れながら、窪みの数を確かめる。
最初は胸だけだったものが、背中の肉体にも現れていた。
人間の腕なら、振る方向を見て避けられる。
しかし全身の窪みが同じように光れば、正面以外からも攻撃が来るかもしれない。
「全部こっちを向いてない?」
「それぞれ違う方向を向いています。来ます!」
窪みから赤い光束が伸びた。
胸のものはシアへ、背中のものはネアへ。
肩と腹からは、二人の間を横切る方向へも放たれた。
赤い線が暗い空間で交差する。
シアは三つの分霊核を前へ出し、迫る線を火で押し返した。
ネアは黒い四翼の向きを変え、正面の二本を吸収して残りを外側へ曲げる。
射線を抜けた二人は、それぞれ異なる角度から巨体を見た。
「今の、星雨みたいだった」
「似ています。ただし分霊核ではありません。自分の肉体に砲口を作っています」
「見て覚えた?」
「少なくとも、こちらの攻撃へ対応する形に変わりました」
シアは砕いた窪みの一つへ視線を戻す。
穴の縁から新しい肉体が伸び、また砲口の形を取り始めていた。
破壊しても再生する性質が、今度は攻撃する器官にも働いている。
終焉の炎は、ただ殴り続ける相手ではなくなっていた。
◆ 返される星雨
終焉の炎の四翼が広がった。
胸と肩に戻った砲口が、今度は二人の移動先へ向きを変える。
先ほどの砲撃は、そこへいる相手を狙っていた。
今回は違う。
シアが右へ抜けようとした先にも、すでに赤い線が伸び始めている。
「また来る!」
「数が増えています。進む方向も見ていますね」
全身の砲口が光った。
何本もの赤い線が、二人へ向かう射線と、その周囲を塞ぐ射線に分かれる。
シアは四翼から火を放出し、線の間で最も広い隙間へ身体を滑らせた。
正面の二本を分霊核で焼き払い、残る一本から身をそらす。
赤い光が白い衣装のすぐ横を抜けた。
一つを避けても、別の砲口がすでに次の線を向けている。
ネアは黒い四翼を広げ、迫る複数の線をまとめて偏向させた。
しかし、その後ろから別の角度の光が重なる。
一本が翼の先端をかすめ、黒い輪郭が大きく欠けた。
ネアは残していた分霊核を自分の背後へ動かし、身体を射線の外へ押し出す。
欠けた翼には原光が戻り、形が少しずつ整っていった。
「大丈夫?」
「翼の端です。動きには支障ありません」
「こっちの星雨より、ずっと数が多い」
「狙いの細かさはまだ私たちが上です。ですが、一本ごとの力が強い」
ネアは巨体の四翼を見た。
砲口へ流れ込む原光は、四翼からだけでは説明しきれないほど多い。
その理由までは分からない。
ただ、技術だけで相手を押さえ込めると思っては危険だった。
巨体は新たな砲口を開き、赤い線をまた別の方向へ伸ばす。
二人は攻撃へ戻る前に、互いの空いている進路を確かめる必要があった。
◆ 互いの逃げ道
シアは右へ避けようとして止まった。
二本の赤い線が進路を横切り、その奥には三本目が待っていた。
上へ逃げても、別の砲口が向きを変えつつある。
すべての射線を打ち消そうとすれば、七つの分霊核を防御へ回すしかない。
だが、攻撃が続く限り、そこで立ち止まることになる。
「右が塞がった!」
「その二本はこちらで曲げます。右上へ抜けて!」
ネアはシアの斜め後ろへ近づき、二つの黒い分霊核を自分の前方へ出した。
光束の端に黒い流れが触れ、二本の向きがわずかに外れる。
シアは空いた隙間へ四翼を傾け、一気に抜けた。
全門を使う必要はない。
相手が通る幅だけ開ければ十分だった。
だが、ネアがそちらへ手を回した分、今度は自分の前方へ砲撃が集まる。
黒い四翼が動こうとする先を、腹部の砲口が狙っていた。
「ネア、前へ出て!」
「前には砲口が残っています」
「それを壊す!」
シアは三門を巨体の腹へ向けた。
火が小型の砲口を突き抜け、支えていた組織を崩す。
光束が途切れ、ネアの正面が開いた。
ネアはそこへ飛び込み、巨体の近くを横切って砲撃の外側へ出る。
シアもその動きを見て、横から追おうとする別の砲口を火で潰した。
「助かりました」
「さっきの、お返し」
「では、次も遠慮なく頼みます」
「そっちもね!」
黒い四翼と赤い四翼が、大きく離れた場所で向きをそろえた。
今はそれぞれの射点をすべて使うより、一門を相手のために残した方が動ける。
昔の二人なら、相手が動けなくなった瞬間を狙っていただろう。
今は、その一瞬を作らせないために自分の力を使っている。
※第64話「宇宙の膠着」は全七回です。
続きます。
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