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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第64話 宇宙の膠着

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(一)星の外の戦場

◆ 星の外の戦場


 終焉の炎が、残った腕を大きく振った。

 シアとネアは赤い巨体を押し上げていた位置から離れ、左右へ飛び退く。

 巨大な手が二人の間を通り過ぎた。

 星を離れる方向へ与えた勢いは、まだ失われていない。

 終焉の炎は身体をよじりながらも、遠ざかる動きを続けていた。

 周囲に空気はない。

 山を崩した時のような轟音も、巨腕が空気を押しつぶす衝撃も起こらなかった。

 代わりに、赤い肉体を走る原光だけが、遠くからでもはっきり見えた。


「離れた。次は撃てる!」

「星へ向かう流れが強まる前に、攻撃を始めましょう」


 ネアは巨体の下側へ目を向けた。

 切り落とした脚の付け根には、もう新しい組織が伸び始めている。

 つい先ほど八翼が削ったはずの肩も、赤い線を集めて形を取り戻そうとしていた。

 あの再生を止められなかったから、二人はここまで運んできた。

 広い宇宙へ出たことで、ようやく大地を傷つける心配なく全力を出せる。

 だが、戦場が変わっても敵の性質までは変わらない。


「セトがいないから、好きに動いていいんだよな」

「自分の射線は自分で決められます。ただし、私の位置も見てください」

「分かってる。ネアもこっちを見てよ」

「当然です」


 シアは七つの赤い分霊核を周囲へ広げた。

 ネアも黒い七核を四翼の近くへ呼び寄せる。

 今はどちらも精霊剣ではない。

 二人は別々の身体で飛び、別々の場所から同じ敵を狙う。

 終焉の炎の四翼が強く明滅した。

 それを合図にしたように、赤と黒の四翼が同時に開いた。


◆ 八つの火


 シアは終焉の炎の正面へ出た。

 七つの赤い分霊核が横一列へ広がり、シア自身を加えた八門が巨体の別々の部位を捉える。

 狙うのは胸と腹だけではない。

 腕の付け根、肩、背中の四翼まで、再生に使われている場所をまとめて撃ち抜く。

 地上では周囲の山を巻き込まないよう、撃つ方向を選ばなければならなかった。

 今は、背後に大地がないことを確かめればよかった。


「炎天・星雨!」


 八つの火が同時に放たれた。

 赤い線が宇宙を走り、肉体へ別々の方向から突き刺さる。

 肩が崩れ、胸が裂け、腹にいくつもの穴が開いた。

 失われた肉体は燃えながら本体を離れ、暗い空間へ散っていく。

 だが、巨体は倒れない。

 傷のある場所へ原光が寄り始め、胸の穴の縁が早くも内側へ伸びた。


「ネア、今!」

「月天・散華」


 黒い八門が一斉に動いた。

 ネアはシアが開けた穴へすべてを重ねるのではなく、再生しようとする肉体のつなぎ目を狙う。

 黒い線が伸びた組織をほどき、その場所を支える原光を奪った。

 胸の穴は広がったまま残り、伸びかけた腕も途中で動きを止める。

 それでも、別の場所から流れが回り込んでくる。


「ほら、効いてる!」

「傷は残せます。ですが、再生を完全には止められません」

「だったら、戻るより早く次を撃てばいい」

「そのためにも、撃つ場所を変える必要があります」


 ネアは巨体の背後へ回った。

 シアは正面に残り、傷を広げようとする。

 二人の砲撃は同じ時機に始まっても、同じ場所から放たれるわけではない。

 シアが破壊し、ネアが戻る流れを減らす。

 八翼で覚えた連携を、今は二人の判断で続けていた。


◆ 月天・絶穿


 終焉の炎の胸部に、星雨で開けた大きな穴が残っている。

 しかし穴の縁は広く、周囲の組織がそれぞれ別の方向から伸びてきた。

 ネアが散華で一方を止めても、反対側では新しい肉体が作られる。

 広い範囲を崩し続けるだけでは、修復する場所を増やしているにすぎないのかもしれない。


「広げるだけじゃ戻るね」

「ならば、今度は深く穿ちます」

「八門を一か所に集める?」

「同じ射線へ並べます。八門の力を一本へ集めるのです」


 ネアの七つの分霊核が移動した。

 自分の正面に、黒い射点が一直線に重なる。

 散華では、八門の力を別々の場所へ広げていた。

 今度は逆だ。

 八門すべての力を、同じ一点へ集束させる。

 攻撃範囲は狭くなるが、その一点へ作用する原光の欠落は、散華とは比べものにならないほど強くなる。


「八門分を一本にするんだ」

「そうです。散華とは区別しましょう」

「名前も変える?」

「原光を絶ちながら穿つ。月天・絶穿とします」

「今つけた?」

「呼び分ける必要がありますから」


 黒い四翼を流れる原光が、八つの射点へ満ちた。

 ネアは胸部の穴、その奥で最も早く組織が戻る部分を狙った。


「月天・絶穿」


 一本の黒い光が伸びた。

 八門の出力が同じ射線へ集束し、強烈な原光の欠落を生み出す。

 赤い肉体を支えていた原光が、一点から急激に失われた。

 周囲から新たな原光が流れ込もうとするが、集束した月の力がそれを上回る。

 黒い光は巨体の奥を抜け、その背後へ細く伸びた。

 胸部には、入口から出口まで続く深い穴が残った。

 ネアは射線を動かさず、穴の縁を確かめた。



※第64話「宇宙の膠着」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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