(一)星の外の戦場
◆ 星の外の戦場
終焉の炎が、残った腕を大きく振った。
シアとネアは赤い巨体を押し上げていた位置から離れ、左右へ飛び退く。
巨大な手が二人の間を通り過ぎた。
星を離れる方向へ与えた勢いは、まだ失われていない。
終焉の炎は身体をよじりながらも、遠ざかる動きを続けていた。
周囲に空気はない。
山を崩した時のような轟音も、巨腕が空気を押しつぶす衝撃も起こらなかった。
代わりに、赤い肉体を走る原光だけが、遠くからでもはっきり見えた。
「離れた。次は撃てる!」
「星へ向かう流れが強まる前に、攻撃を始めましょう」
ネアは巨体の下側へ目を向けた。
切り落とした脚の付け根には、もう新しい組織が伸び始めている。
つい先ほど八翼が削ったはずの肩も、赤い線を集めて形を取り戻そうとしていた。
あの再生を止められなかったから、二人はここまで運んできた。
広い宇宙へ出たことで、ようやく大地を傷つける心配なく全力を出せる。
だが、戦場が変わっても敵の性質までは変わらない。
「セトがいないから、好きに動いていいんだよな」
「自分の射線は自分で決められます。ただし、私の位置も見てください」
「分かってる。ネアもこっちを見てよ」
「当然です」
シアは七つの赤い分霊核を周囲へ広げた。
ネアも黒い七核を四翼の近くへ呼び寄せる。
今はどちらも精霊剣ではない。
二人は別々の身体で飛び、別々の場所から同じ敵を狙う。
終焉の炎の四翼が強く明滅した。
それを合図にしたように、赤と黒の四翼が同時に開いた。
◆ 八つの火
シアは終焉の炎の正面へ出た。
七つの赤い分霊核が横一列へ広がり、シア自身を加えた八門が巨体の別々の部位を捉える。
狙うのは胸と腹だけではない。
腕の付け根、肩、背中の四翼まで、再生に使われている場所をまとめて撃ち抜く。
地上では周囲の山を巻き込まないよう、撃つ方向を選ばなければならなかった。
今は、背後に大地がないことを確かめればよかった。
「炎天・星雨!」
八つの火が同時に放たれた。
赤い線が宇宙を走り、肉体へ別々の方向から突き刺さる。
肩が崩れ、胸が裂け、腹にいくつもの穴が開いた。
失われた肉体は燃えながら本体を離れ、暗い空間へ散っていく。
だが、巨体は倒れない。
傷のある場所へ原光が寄り始め、胸の穴の縁が早くも内側へ伸びた。
「ネア、今!」
「月天・散華」
黒い八門が一斉に動いた。
ネアはシアが開けた穴へすべてを重ねるのではなく、再生しようとする肉体のつなぎ目を狙う。
黒い線が伸びた組織をほどき、その場所を支える原光を奪った。
胸の穴は広がったまま残り、伸びかけた腕も途中で動きを止める。
それでも、別の場所から流れが回り込んでくる。
「ほら、効いてる!」
「傷は残せます。ですが、再生を完全には止められません」
「だったら、戻るより早く次を撃てばいい」
「そのためにも、撃つ場所を変える必要があります」
ネアは巨体の背後へ回った。
シアは正面に残り、傷を広げようとする。
二人の砲撃は同じ時機に始まっても、同じ場所から放たれるわけではない。
シアが破壊し、ネアが戻る流れを減らす。
八翼で覚えた連携を、今は二人の判断で続けていた。
◆ 月天・絶穿
終焉の炎の胸部に、星雨で開けた大きな穴が残っている。
しかし穴の縁は広く、周囲の組織がそれぞれ別の方向から伸びてきた。
ネアが散華で一方を止めても、反対側では新しい肉体が作られる。
広い範囲を崩し続けるだけでは、修復する場所を増やしているにすぎないのかもしれない。
「広げるだけじゃ戻るね」
「ならば、今度は深く穿ちます」
「八門を一か所に集める?」
「同じ射線へ並べます。八門の力を一本へ集めるのです」
ネアの七つの分霊核が移動した。
自分の正面に、黒い射点が一直線に重なる。
散華では、八門の力を別々の場所へ広げていた。
今度は逆だ。
八門すべての力を、同じ一点へ集束させる。
攻撃範囲は狭くなるが、その一点へ作用する原光の欠落は、散華とは比べものにならないほど強くなる。
「八門分を一本にするんだ」
「そうです。散華とは区別しましょう」
「名前も変える?」
「原光を絶ちながら穿つ。月天・絶穿とします」
「今つけた?」
「呼び分ける必要がありますから」
黒い四翼を流れる原光が、八つの射点へ満ちた。
ネアは胸部の穴、その奥で最も早く組織が戻る部分を狙った。
「月天・絶穿」
一本の黒い光が伸びた。
八門の出力が同じ射線へ集束し、強烈な原光の欠落を生み出す。
赤い肉体を支えていた原光が、一点から急激に失われた。
周囲から新たな原光が流れ込もうとするが、集束した月の力がそれを上回る。
黒い光は巨体の奥を抜け、その背後へ細く伸びた。
胸部には、入口から出口まで続く深い穴が残った。
ネアは射線を動かさず、穴の縁を確かめた。
※第64話「宇宙の膠着」は全七回です。
続きます。
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