(六)星の外へ
◆ 二人の体当たり
シアは終焉の炎の右下へ回った。
ネアは左下へ移る。
巨体は削られても、二人よりはるかに大きい。
しかし、地面をつかむ腕も、踏ん張るための脚も大きく失っていた。
残された肉体には、外へ伸びて再び支えを作ろうとする動きがある。
その前に持ち上げる。
二人は位置を決めると、翼を強く開いた。
「シア!」
「今!」
赤と黒の光が左右から突入した。
二人は巨体へ全身ごとぶつかる。
赤い四翼が正面から力を加え、黒い四翼が横へ逃げようとする流れを上向きへそろえる。
片方だけで押しても、巨体が傾くだけだ。
シアが押す位置に合わせて、ネアも接触する場所を変えた。
巨大な肉体が山肌からわずかに浮く。
残った脚の断面が斜面を削り、岩を巻き込んだ。
「上へ!」
「そのまま続けてください!」
ネアは下へ戻ろうとする原光の向きを変える。
シアは四翼からさらに力を通し、巨体を正面から押し上げた。
終焉の炎の四翼が広がり、進む方向を変えようとする。
二人は離れず、接触する場所を調整しながら上向きの力を保った。
巨体の脚が、ついに山肌から離れる。
真下に空間ができた。
「浮いた!」
「ここからです!」
下方では、セトがフィオラに支えられて見上げていた。
赤い巨体と、その左右の小さな二人が、山から離れていく。
攻撃のために衝突したのではない。
あの大きなものを、二人で同じ方向へ運ぶための体当たりだった。
◆ 雲の上へ
三体が雲の中へ入った。
終焉の炎の赤い四翼が雲を切り裂く。
シアとネアは左右から離れず、巨体が腕を動かすたびに接触する位置だけを変えた。
追い抜いても、突き落としてもいけない。
上へ向かう動きが途切れないよう、二人は力を送り続けた。
「右が下がる!」
「そちらは私が上げます!」
シアが身体を巨体の右へ寄せる。
ネアは反対側で四翼を傾け、傾いた肉体を上向きに直した。
終焉の炎は四翼へ原光を集め、何度も進む方向を変えようとする。
だが、そのたびに二人は腕や残った胴へ触れる位置を変えていた。
同じ力を出し続けるのではなく、相手が動くたびに押す場所を変える。
雲の上へ出た。
空の青が少しずつ濃くなり、周囲の空気が薄くなっていく。
巨腕が動いても、地上のような衝撃音は届きにくくなった。
それでも赤い肉体の内部では原光が流れ、欠けた部分がゆっくり戻り始めている。
「行きましたね」
地上近くでフィオラが言った。
セトはその腕に支えられ、空を見上げる。
雲の上の三体は、すでに遠い光に見えた。
「ああ。あそこまで上がれば、山を巻き込まない」
「二人だけなら、長く戦えますね」
「でも、倒し方は分かってない」
「それでも、ここで戦い続けるよりはいいはずです」
「ああ」
セトは視線を下ろさなかった。
自分にできたのは、二人が押し上げられるところまで削ることだった。
ここから先の一撃は、自分の手では振れない。
◆ 星の外へ
青かった空が、しだいに暗くなった。
終焉の炎は、なお抵抗を続けている。
残った腕を二人へ向け、赤い四翼へ原光を集めて進路を変えようとした。
シアは正面に身体を寄せ、下へ向こうとする巨体を押す。
ネアは左側から、横へ流れる力の向きを上へ変えた。
片方が押すたび、もう片方が方向を整えていく。
「もう少し!」
「分かっています!」
巨体の背後には、さっきまで通り抜けてきた空が広がっている。
その青は遠ざかり、雲の白も地面の色も薄くなった。
シアの赤い翼とネアの黒い翼だけが、近くではっきり見える。
二人は終焉の炎から離れない。
離した瞬間、また星へ向かって落ちていくかもしれなかった。
持ち上げる力を緩めないまま、三体は大気の外へ抜ける。
音が消えた。
周囲に風はない。
翼が押すのは空気ではなく、原光によって生じる力だ。
終焉の炎が身をよじっても、山を砕く音も、空気を押し裂く衝撃も生まれない。
眼下には、丸みを帯びた星が広がっていた。
シアはそれを一度だけ見下ろした。
「ここなら、好きなだけ削れる」
「地上へ落とさないことが先です」
「分かってる。ちゃんと見てる」
ネアは返事をせず、巨体から伸びる赤い原光を追った。
削っても再生する。
止め方が分からないままなのも変わらない。
それでも、セトの八翼が終えた仕事によって、戦場は星の外へ移った。
二人は終焉の炎を、このまま完全に削り切るつもりでいた。
ここからは、赤い四翼と黒い四翼だけの長い戦いになる。
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