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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第63話 八翼再戦

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(五)人間を外す

◆ 八翼の限界


 セトは極炎を持つ右手を少し下げた。

 赤と黒の流れをそろえるたび、次の流れがわずかに遅れる。

 シアの火も、ネアの月も、出力が落ちているわけではない。

 十四個の分霊核も正常に動いている。

 だが、それらを一つの八翼として保つために、セトが合わせ直す回数だけが増えていた。

 先ほどは意識せず通せた部分で、何度も調整が必要になる。


『セト』


 ネアの声が届く。


「分かってる」

『八翼を保てる時間が短くなっています』

『まだ撃てるよ』

「撃てても、俺が維持できない」


 シアが一瞬黙った。

 セトは無理に八翼を引き上げようとはしなかった。

 まだ戦えそうな感覚はある。

 しかし、二人の力をそろえる判断を一度誤れば、次の腕を避ける時機まで狂いかねない。

 終焉の炎は小さくなったとはいえ、再生を続けている。

 最後まで八翼で戦う計画ではなかった。


『じゃあ、セトを外す』

「ああ。ここからは二人に頼む」

『私たちなら、もっと長く続けられます』

「分かってる。だから、その前に地上から離してくれ」


 セトは下方を見た。

 フィオラが淡緑色の二翼を広げ、離れた位置を保っている。

 彼女は八翼へ近づきすぎず、巨体が腕を伸ばしても巻き込まれない距離を選んでいた。


「フィオラ!」

「はい!」

「下へ来てくれ。八翼を解除する!」


 フィオラが翼の向きを変えた。

 セトは二本の精霊剣を握ったまま、最後に巨体の脚を見た。

 地面をつかんでいた部分は、今はもうない。

 ここから先を続けるには、八翼を保つより解除する方がいい。


◆ 人間を外す


 フィオラが八翼の下へ入った。

 セトの落ちる位置を見上げ、二翼の流れを細くそろえる。

 まだ解除はしていない。

 それでも、フィオラが受け止められる高さと距離にいることを、セトは確かめられた。


「いつでも受け止められます」

『解除したら、すぐに押し上げる』


 シアが言った。


「二人で左右から入れ。正面でぶつかり合うなよ」

『私は、下へ逃げる流れを上へ変えます』


 ネアの声が続く。


「そのまま大気の外まで運んでくれ」

『セトは?』

「俺は行けない」

『あとで来る?』


 シアの問いに、セトはすぐには答えられなかった。

 行きたい気持ちだけで、宇宙へ追いかけられるわけではない。

 八翼を維持する時間にも限りがある。


「方法ができたら行く」

『分かった。先に削っておく』

「完全に倒せる保証はない。無理なら距離を取れ」

『削り切る』

「シア」

『……無理になったら離れる』


 少し間を置いて、シアが言い直した。


『ネアと相談する』

『最初からそうしてください』


 ネアの返事を聞き、セトは小さく息を吐いた。

 戦場を変えるだけでは、勝ったことにはならない。

 それでも二人なら、ここでセトの限界に合わせて戦う必要がなくなる。

 フィオラがセトを受け止める。

 シアとネアが巨体を運ぶ。

 それぞれが自分の仕事へ戻るだけだ。


「二人とも、頼んだ」

『任せて!』

『必ず地上から遠ざけます』


 終焉の炎の残った腕が上がった。

 次の一撃が来る前に、セトは二本の精霊剣へ意識を向けた。


「分離するぞ」


◆ 強制分離


 セトは、極炎と絶光へ続く二つの流れを同時に解いた。

 右手の赤い剣が光へ変わる。

 左手の黒い剣も、遅れずに形を失った。

 セトの背中に広がっていた八枚の翼が、赤と黒に分かれて消える。

 十四個の分霊核も、それぞれの主のもとへ移っていった。

 空中に残されたセトの身体が、重力に引かれて落ち始める。


「セトさん!」


 すぐ下からフィオラが上昇した。

 淡緑色の二翼が流れを作り、落ちる身体の速度を減らす。

 フィオラは両腕を伸ばし、セトを抱えるように受け止めた。

 勢いを受けた二翼が一度たわんだが、すぐに安定する。


「受け止めました」

「ありがとう。二人を見ててくれ」

「はい。ここからなら、動きが見えます」


 上空で、赤い光と黒い光が人の形へ戻った。

 シアの赤い四翼。

 ネアの黒い四翼。

 それぞれの周囲へ、七つずつ分霊核が収まっていく。

 終焉の炎は、その二人へ残った腕を振り下ろした。

 シアは右へ、ネアは左へ分かれた。

 巨腕が二人の間を通り過ぎる。

 直前まで八翼だった二人は、今は自分の翼だけで飛んでいる。


「行く!」

「合わせます」


 シアとネアは互いの位置を確かめた。

 自分たちの間に、もうセトはいない。

 だが、次に向かう方向は同じだった。

 フィオラはセトを支えたまま高度を下げる。

 二人が突入した時に巻き込まれないよう、十分な距離を取った。



※第63話「救出」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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