(三)質量を削る
◆ 集まる流れ
八翼は終焉の炎の正面を横切った。
セトは巨体の内側を巡る流れへ意識を向ける。
胸から腹にかけて散っていた原光が、ある部分で一度密集し、そこから枝分かれしていた。
傷が増えるたびに位置は少し変わるが、流れが集中する時間は確かにある。
「集まってる場所がある」
『核?』
シアが尋ねる。
「分からない。あそこを壊してみる」
『その場所へ合わせます』
ネアの黒い七核が射線を空ける。
セトは右手の極炎を小さく上げ、火の一門だけを密集点へ向けた。
赤い線が突き刺さり、続けて黒い一門が同じ位置から原光を奪う。
肉体が大きく崩れ、周囲の導路まで引き裂かれた。
集まっていた流れは途切れた。
一瞬、巨体全体の動きが鈍ったように見えた。
だが、次の瞬間には別の肉体から原光が伸び、先ほどとは違う場所へ集まり始める。
足りない部分を補うように、傷の奥から新しい組織が生まれた。
「止まらない」
『中心ではなかった?』
「中心に見えただけかもしれない」
セトは、壊した部分から目を離さなかった。
残った研究者は、終焉の理という機構と、発掘された神の目について話していた。
だが、それらがどこにあり、どう作用するのかまでは知らなかった。
目の前にある原光の密集が、それらと関係するのかどうかも分からない。
見えたものを壊して反応を確かめることはできる。
その結果を、兵器の停止方法だと思い込むことはできなかった。
『もう一度、集まった場所を撃つ?』
「同じ結果になるかもしれない。今は、その時間を別に使いたい」
終焉の炎の拳が迫る。
八翼は上へ抜け、崩れた肉体の下に残る大地を見た。
◆ 地上に残る傷
拳が山の稜線をかすめた。
巨大な岩塊が外れ、斜面の下へ落ちていく。
八翼の攻撃で削られた赤い組織も、同じ方角へ崩れ落ちていた。
セトが終焉の炎を見上げると、胸部ではすでに新しい肉体が形を取り始めている。
一方、砕けた山は元へ戻らない。
谷を埋める土煙と、倒れた木々だけが残る。
「削れるのは分かった」
『まだ全部は削れていないけど』
「ああ。だが、ここで続けるほど山がなくなる」
シアは一度、下を見た。
さっき自分が通り抜けた巨腕の軌跡が、長い傷となって山肌に残っている。
敵の攻撃を避けるたび、当たらなかった腕が地面を壊す。
八翼が火力を上げれば、今度は自分たちの攻撃で崩れる場所も増える。
『もっと上へ誘えば?』
『巨体の一部が地面へ残っています。今のままでは上がりきらないでしょう』
ネアが答えた。
足元から肩へ、太い肉体がつながっている。
腕を振る際にも、巨体は残った脚で斜面を踏みしめていた。
単に飛び上がるだけでは、あの質量を持ち上げられそうにない。
「先に小さくする必要があるな」
『止め方を探すのは?』
「地上で探し続けるのは危険だ」
セトは後方を確かめた。
フィオラは離れた空域に留まり、巨体へ近づかない位置を保っている。
戦っている自分たちでさえ、次の一撃の落ちる場所を完全には選べない。
まして、その外側にいる者が逃げ切れるとは限らない。
倒す方法が分からないなら、せめて戦う場所を変える。
セトは、赤い巨体の上に広がる空へ目を向けた。
◆ 質量を削る
「倒すのは後だ」
『後?』
シアが聞き返した。
「宇宙へ持っていける大きさまで削る」
『宇宙へ?』
「地上で長く撃ち合えば、周りがもたない」
セトは八翼を広げ直した。
八翼なら、あの巨体を削ることはできる。
だが、残った肉体は外から原光を集めて再生してしまう。
止める方法が分かるまで地上に置いておくのは危険だった。
「俺が八翼を維持できる時間にも限界がある」
『セトを外せば、私たちは長く戦えます』
「ああ。二人だけになったら、宇宙で削り切れ」
『分かった』
シアは間を置かずに答えた。
『なら、持ち上げられる大きさにする』
「そうだ。腕も脚も残ってる。まずはそこを減らす」
『上へ運べたら、私たちだけで戦えばいい』
『そうなります。ただし、止め方が分かったわけではありません』
「分かってる。完全に消えるまで続ける」
シアの答えには迷いがない。
ネアは、ひとまずそれ以上は言わなかった。
二人は精霊王であり、セトとは使える時間の長さが違う。
何度攻撃しても戻る相手なら、今度は相手が戻るより速く削るしかない。
少なくとも、二人はそう考えている。
「次は、残った肉体をまとめて減らす」
『十六門ですね』
「ああ。あれなら全身に同時に届く」
セトは巨体を囲むように八翼の進路を変えた。
分霊核はセトの周囲に留めたまま、射線だけを別々の部位へ向ける。
ひとつの場所へ集めるのではなく、十六の攻撃を同時に届かせる。
巨体の肩、腕、胸、腹、脚。
次の瞬間に再生させる場所を、できるだけ多く増やすためだった。
※第63話「救出」は全六回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/




