(二)星雨と散華
◆ 星雨と散華
最初に、赤い七核が大きく広がった。
極炎の刃先にも火が集まる。
『炎天・星雨!』
八本の赤い線が、巨体の胸、肩、腕、腹へ走った。
火は肉体の表面で終わらず、組織の奥まで突き抜けて崩す。
肩から赤い塊が落ち、胸部には離れた位置にいくつも穴が開いた。
傷の周囲へ原光が集まり始める。
そこへ黒い七核が向きを変えた。
『月天・散華』
絶光からの一門を加えた八本の黒い線が、赤い穴の縁を横切った。
切断面を支える原光が減り、つながり直そうとしていた肉体の動きが鈍くなる。
赤い攻撃と黒い攻撃が届く場所は、完全に重なってはいない。
シアが崩した箇所と、ネアが戻る流れを断つ箇所を、それぞれ選んでいた。
「効いてる」
『はい。ただし、まだ残っています』
終焉の炎が右腕を持ち上げた。
胸の穴へ集まりかけていた原光の一部が、今度は腕へ流れ込む。
巨大な拳の周囲で空気が押しつぶされ、赤い光が一段と強くなった。
「右へ抜ける!」
セトは八翼を傾けた。
巨腕があった場所へ突っ込むのではなく、腕の外側を抜ける。
拳が通り過ぎた後、極炎を肩口へ振り下ろした。
絶光はその外側から、次の攻撃へ向かう原光を削る。
一撃ごとに、巨体の姿が少しずつ変わっていった。
しかし倒れない。
傷の奥では、次の組織が生まれ始めていた。
◆ 火と月の分担
シアは、崩れた肩の奥へさらに火を通そうとした。
その時、終焉の炎の反対側の腕が動く。
切断された肉体が落ちる間にも、別の腕へ原光が集まっていた。
『まだ削れる!』
『その角度では、次の腕が当たります』
ネアが警告した。
セトは左手の絶光を引き、右手の極炎を前に向けたまま上昇する。
「上を取る。シアは移動しながら撃て」
『了解!』
赤い七核から、短い間隔で火が放たれた。
狙うのは巨体の腕そのものではない。
腕を動かすために厚くなっている付け根だ。
ネアはセトへ迫る原光の流れを読み、極炎の射線とぶつからない方向へ絶光を振らせた。
腕を支えていた赤い組織が減り、振り抜く途中で先端が大きく下がる。
「今度は左だ!」
『分かっています』
八翼が反転した。
シアは正面からの突破が得意だ。
ネアは受け止め、流れを変えることを得意とする。
どちらか一人へ合わせ続ければ、もう一人の働きが遅れる。
セトは二人が狙っている場所を同時に見て、身体をどこへ置くかだけを決めた。
次の瞬間、腕の下を抜けた八翼が巨体の後ろへ出た。
『今なら背中です』
「よし。四翼の付け根を狙う」
赤と黒の射点が背面へ向いた。
背中へ集まる原光が一度散り、終焉の炎は全身をひねる。
その動きに合わせてセトは攻撃を止めた。
敵を逃がしたわけではない。
次に原光が集まる場所を、見るためだった。
◆ 再生の流れ
終焉の炎の肩が欠けたまま、胸の穴が塞がり始めた。
セトはあえてすぐには撃たず、残った肉体の奥を走る原光を追った。
最初は胸に集まった流れが、肩へ向きを変える。
肩の組織が戻り始めると、今度は腹の傷が薄く光った。
修復に使う原光が、損傷のある場所へ次々に振り分けられている。
「傷の位置で、流れが変わってる」
『一つの場所から送っているのでは?』
「違う。残った部分が、それぞれ戻そうとしてる」
ネアの問いに、セトは目を細めた。
赤い四翼が集める外からの原光と、巨体の内部に残った流れ。
その二つが組み合わさって、次の形を作っているように見える。
どこか一か所を切れば終わるという単純な動きではなかった。
『だったら、全部削ればいい』
「その前に、どうやって戻ってるかをもう少し見る」
『分かった。次は別の場所を撃つ』
シアの七核が巨体の上側を狙う。
そこへ短く火を通すと、傷のないはずの腰から原光が移動した。
ネアは別の側面に黒い線を走らせ、流れの先を一つだけ断った。
断たれた場所へ集まる力が減った分、別の傷へ原光が流れる。
同時に修復する場所は増えても、その速さは一定ではない。
傷を増やした時と、流れを断った時では反応が違った。
セトは二本の剣を握り直す。
攻撃すれば確かに形は崩れる。
だが、そのたびに全身の流れが組み替えられていた。
「まだ、止め方は見えないな」
『流れそのものには、まとまりがあります』
ネアの言葉に、セトはもう一度巨体を見た。
再生へ向かう流れの中に、一度だけ近い場所へ寄ってから分かれる筋があった。
※第63話「救出」は全六回です。
続きます。
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