(八)二本の剣
◆ 白炎と黒刃
「白炎を強くするぞ」
シアが言った。
「まだ無理するな」
「少しだけだ」
火が白刃へ流れる。
白い炎が大きくなった。
右手へかかる負担が増える。
同時に、左の黒刃を保つ。
光を集めながら、反対側では光を排除する。
意識を近づけすぎれば、白刃が弱くなる。
離しすぎれば、黒刃の空白が崩れる。
「白炎を主にしろ」
祖父が言う。
「黒刃は魔剣へ触れる時だけでいい」
「分かってる」
白炎で前へ出る。
黒刃は体の近くへ残す。
祖父が木剣を振る。
白炎で受ける。
木剣にまとわせた精霊力だけを、黒刃で横から削る。
術を失った木剣が軽くなる。
セトは白炎で押し返した。
「それだ」
◆ 二刀の形
数日後。
セトは白刃と黒刃を同時に出したまま、祖父と打ち合えるようになっていた。
白刃で斬る。
黒刃で受ける。
白刃を短くし、懐へ入る。
黒刃で相手の術を崩し、白刃で空いた場所へ斬り込む。
まだグラウスほど滑らかではない。
長く続ければ、二本の形も揺らぐ。
それでも、一本ずつ切り替えていた時とは違う。
「これなら、魔剣ともう一本へ同時に対応できる」
セトが言う。
「対応できるだけだ」
祖父が木剣を下ろした。
「勝てるとは言っていない」
「分かってる」
「グラウスには、お前より長い剣術の経験がある」
「ああ」
「魔剣も、前より強くなっている」
シアから奪った火が加わっている。
「それでも行くのか」
「行く」
「シアの力が戻ってからか」
セトは軒下を見る。
シアは立っていた。
手のひらには、拳ほどの炎がある。
「もう戻っている」
「全部ではない」
「戦えるのか」
「前より弱い」
シアは火を握るように消した。
「だが、セトの白刃へ火を乗せるくらいはできる」
◆ 古い剣の使い手
祖父は、セトの白刃と黒刃を見た。
「グラウスも、同じ一族の術を使う」
「ああ」
「なら、お前の技も知っている」
「白刃と黒刃の性質は隠せない」
「二刀も知っているだろう」
「それでも、前とは違う」
前回のセトは、白刃と黒刃を一本ずつ使っていた。
切り替える時の隙を狙われ、何もできなかった。
今度は、白炎で正面から戦いながら、黒刃で魔剣へ触れられる。
「シアの火が戻り切るまで待つ手もある」
祖父が言う。
「待てば、グラウスもさらに力を奪うかもしれない」
「どこにいるか分かるのか」
「向こうから来る」
セトが答える。
「なぜ分かる」
「あいつはシアが精霊剣になるのを待っている」
シアが生きている限り、グラウスは二人を見失ったままにはしない。
「今度は、こちらが待つ」
◆ 信頼の形
稽古を終えた後、セトとシアは家の前に並んで座った。
山の向こうへ日が沈み始めている。
「精霊剣の話をして、後悔したか」
セトが尋ねた。
「していない」
「俺が意識するかもしれないと言っていた」
「もう意識している」
「そうだな」
「だが、話さない方が危険だった」
グラウスは精霊剣を知っている。
二人が知らなければ、何を狙われているかも理解できない。
「信頼が何かは分かったか」
「分からない」
シアは即答した。
「まだか」
「セトは分かったのか」
「分からない」
「同じだな」
「ああ」
少し間が空いた。
「だが、火を渡すことはできる」
シアが言う。
「前からできてる」
「前より大きな火を渡した」
「持ち切れなかった」
「次は持て」
「それも前に聞いた」
「なら、覚えているな」
◆ 二本の剣
セトは立ち上がった。
右手に白刃を作る。
シアが小さな火を送り、白い炎が刀身を包む。
左手には黒刃。
白い炎と、光のない黒い剣。
二本が同時に並ぶ。
「白炎で正面から戦う」
セトが言う。
「黒刃で魔剣の力を崩す」
「ああ」
「今度は、一本ずつではない」
「わたしもいる」
「分かってる」
「二人と二本だ」
「数え方がおかしくないか」
「セトが二本。わたしが一人」
「なら三つだろ」
「わたしの火は白炎に入っている」
「余計に分からなくなった」
シアは少し考えた。
「二人でいい」
「ああ」
白炎が静かに揺れる。
黒刃は、その隣で周囲の光を押しのけていた。
精霊剣になるための信頼が何なのか、二人にはまだ分からない。
それでも、互いの力をどう使うかは、前よりも分かっていた。
次にグラウスと向き合う時、セトはもう一本の剣を隠さない。
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