(四)鎖の中枢
◆ 鎖の中枢
シアの背後には、何本もの鎖と赤い導路が重なる太い部分があった。
手足と胴を縛る鎖は別々に見えても、原光はここで分かれ、またここへ集まっている。
セトは絶光の刃を、手前の導路へ軽く押し当てた。
赤い光が弱まり、離れた二本の鎖の輝きまで揺れた。
いま見た変化は偶然ではなさそうだった。
「鎖は別々なのに、流れはここでつながってる」
『はい。収容部の中枢でしょう』
「ここを切れば、全部止まる」
『少なくとも、縛炎鎖へ原光を送り、シアの火を奪う流れはまとめて断てます』
ネアは慎重に答えた。
終焉の炎全体を止められるという意味ではない。
いま必要なのは、シアをこの拘束から外すことだった。
セトは、シアの背中と中枢の間隔を確かめた。
狙う位置を誤れば、拘束を切るつもりで本人まで巻き込む。
刃を広く振り回すより、一つの場所へ正確に通すべきだと判断した。
「絶光で切れるか?」
『時間をかければ』
「翔嵐は?」
『同じ場所へ流れを重ね続ければ、切断は可能です』
フィオラの声が続く。
『ですが、通路を維持したままでは時間が足りません』
奥から重い音が届いた。
赤い肉体が経路を押しつぶそうとしている。
フィオラは入口側の流れまで支え続け、声にも苦しさが混じり始めていた。
『セトさん。後ろが狭くなっています』
「あと少しだけ頼む」
『はい。道は残します』
セトは中枢から絶光を離した。
切るべき場所は分かった。
だが、二本の精霊剣をそのまま使って削り続ける余裕はない。
退路を保つ仕事を止めずに、別の刃で一撃を入れる必要がある。
「二人とも、人型へ戻ってくれ」
『分かりました』
『戻ります』
◆ 二人の退路
右手の翔嵐が淡緑色の光に変わった。
フィオラが人の姿へ戻り、空洞の床へ降り立つ。
淡緑色の二翼が背後へ広がり、入口へ続く道の両側に流れを作った。
切断されて浮いた組織を外へ送り、傷へ集まる原光を横へ逃がす。
「私は通路を維持します」
フィオラは振り返らない。
今はシアの近くより、退路全体の変化を見ている必要があった。
左手の絶光も黒い光に変わる。
人の姿へ戻ったネアの背後に、黒い四翼が開いた。
「私は中枢へ入る原光を抑えます」
ネアがシアの背後へ手を向ける。
黒い四翼から細い流れが伸び、中枢へ入ろうとする原光を下方へ曲げた。
絶光ほど局所的に原光を消せるわけではない。
それでも、中枢から各鎖へ向かう量は確かに減っていく。
六翼を一つにしたままでは、この分担はできなかった。
ネアとフィオラは別々の位置へ動き、守る場所を分けている。
その代わり、セトを空中に支えていた六翼の力も消えていた。
足場を確かめ、セトは自分の剣で中枢へ向き直った。
「今なら、先ほどより切りやすいはずです」
セトは空いた右手に白い原光を集めた。
剣の形へ固定する。
白刃。
長さも幅も、いつも使っている直剣のままだ。
通常の白刃だけでは、中枢を一撃で断つには足りない。
「極剣を使う」
ネアがセトを見た。
「一瞬だけですね」
「ああ」
安全制限を外し、白刃へ大きな力を通す。
長く維持するための技ではない。
後方の道も、無制限に保てるわけではなかった。
その一瞬を外せば、次はない。
少なくともセトは、ここで二度目の間合いを作れるとは考えなかった。
「切ったら、すぐに出る」
「道は残します」
「シアは私が運びます」
フィオラとネアが、それぞれ答えた。
セトは縛炎鎖の中枢へ白刃を向けた。
※第62話「救出」は全六回です。
続きます。
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