(三)火の核
◆ 火の核
肉体の中へ作られた空洞。
その中央に、シアが固定されていた。
目を閉じ、頭をわずかに下げている。
赤い四翼は力を抜いたまま広がり、鎖の導路へ原光を送り続けていた。
手足と胴には赤黒い縛炎鎖が巻きついている。
壁へ伸びた導路のうち、四本は終焉の炎の四翼の方向へ続いていた。
空洞の外周にも原光が密集している。
ここで大きく絶光を広げれば、拘束だけでなくシア自身を通る流れまで巻き込むかもしれない。
目的は空洞を消すことではなかった。
セトは絶光の切っ先を下げ、シアを支える鎖だけを見た。
「シア!」
セトが呼んだ。
返事はない。
腕を動かそうとする気配もない。
シアとのつながりは確かに目の前にある。
それでも、つながりの向こうから意識のある応答は返ってこなかった。
新たに呼びかけても、閉じた目は動かなかった。
『身体は保たれています』
ネアが言った。
『内部にも原光は流れています。ただ、意識が表へ出ていません』
セトはシアへ手を伸ばしかけた。
しかし、空洞の壁が盛り上がり、目の前を塞ぐ。
赤黒い組織が何枚も重なって、シアを囲もうとした。
絶光が一枚を断つ。
翔嵐は切り離した組織を、セトとシアの間へ戻さず後方へ送った。
セトは開いた隙間へ踏み込む。
「シア。迎えに来た」
顔の近くまで来ても、反応はない。
セトはそれ以上呼び続けなかった。
まず、この拘束を解くしかない。
間近で見る鎖は、谷でシアを捕らえたものと同じ赤い導路を持っていた。
◆ 縛炎鎖
セトはシアの胴を囲む鎖へ絶光を当てた。
黒い刃が触れた場所から、鎖の赤い光が薄くなる。
シアから火を奪う流れも弱まった。
だが、手足と胴を固定する鎖そのものは残っている。
刃を離せば、周囲から流れが戻ろうとした。
「作用は薄くできる」
『はい。原光を奪って終焉の炎へ送る機能も、拘束を強める機能も弱くなっています』
「全部止められるか?」
『すべての鎖から原光を抜き続ければ、可能かもしれません。ですが時間が必要です』
後方から、低い音が響く。
通路の周囲へ再生する肉体が集まり始めていた。
『後方の圧力が上がっています』
フィオラが言った。
『まだ維持できますが、長時間は難しいです』
セトは右手の翔嵐を、シアの手首を囲む鎖へ当てた。
淡緑色の流れを一点に集める。
鎖が大きく揺れた。
同じ場所へもう一度流れを重ねると、表面に細い傷が入る。
しかし、完全には切れない。
『切断は可能です。ただ、一本ずつでは時間がかかります』
「絶光も同じか」
『鎖の作用を弱めることはできますが、構造そのものをすぐに断つことはできません』
ネアの答えを聞き、セトはシアを固定する鎖の本数を確かめた。
一本を切るのに手間取るなら、すべて切り終える前に退路が閉じる。
力任せの切断を続ける時間はない。
それでもセトは、鎖を切る場所をむやみに増やさなかった。
手首の鎖を断てても、胴の鎖が残ればシアは動けない。
順番にほどくのではなく、拘束全体を維持している場所を探すべきだった。
別の場所を断つ必要があった。
◆ 起きないシア
「シアが起きれば、自分で抜けられるか?」
『絶光で縛炎鎖の作用を薄くした状態なら、可能でしょう』
ネアはシアと鎖の流れを確認した。
『自身の火で焼き切るか、四翼の力で引きちぎることもできるはずです』
セトは、シアの顔をのぞき込んだ。
ずっと探していた相手が、手の届くところにいる。
なのに、閉じた目は動かない。
シアが目を覚ませば、こんな鎖は自分で壊してしまうかもしれない。
だが、それを当てにして待つわけにはいかなかった。
「シア。聞こえるなら返事をしてくれ」
つながりへ意識を向けても、応答はない。
意識が失われた原因までは分からない。
少なくとも、今のシアに何かを頼むことはできなかった。
『目を覚ますまで待つ余裕はありません』
「ああ。こっちで壊す」
セトはシアの手首から伸びる鎖を目で追った。
次に足首と胴の鎖を見る。
それぞれ壁へ固定されているように見える。
しかし、赤い導路が走る方向は同じではなかった。
いくつかはシアの背後へ回り込み、そこで太い束となっている。
一本だけ絶光を当てると、別の鎖の赤い光までわずかに揺れた。
独立した拘束なら、起こらない変化だった。
「あそこだ」
『何が見えましたか』
「鎖が、後ろで一つにつながってる」
セトはシアの背後へ回るため、足元の組織を絶光で切った。
見つけたものが解決策になるかは、近づいて確かめるしかない。
すでに切れそうな場所を探している場合ではなかった。
切ることで何が止まるのかを確かめる必要がある。
※第62話「救出」は全六回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/




