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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第62話 救出

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(二)胸部を開く

◆ 胸部を開く


 赤い皮膚が眼前に迫る。

 その下では、何本もの原光の流れが複雑に交差していた。

 セトは絶光の切っ先を、胸部の一点へ向ける。

 黒い刃が触れた部分から原光が抜け、皮膚を支える力が消えていった。


 セトが絶光を振り下ろす。

 赤い肉体へ黒い線が走り、両側の組織が崩れる。

 穴が開いた。

 だが、すぐに切断面へ別の原光が集まり、左右から肉が伸びてきた。

 前回なら、その速さに合わせてネアも力を割かなければならなかった。


「フィオラ!」

『はい!』


 右手の翔嵐を、開いた傷の外側へ向ける。

 淡緑色の流れが切断された組織へ回り込み、まだつながろうとしている部分を外へ運んだ。

 風が単に肉を吹き飛ばしているのではない。

 傷へ戻ろうとする原光の向きも変え、組織が再接続する前に引き離していた。

 赤い破片が胸部の外へ流れ、穴の縁が離れたまま残る。

 下側から新たな組織がせり上がったが、フィオラは正面から押し返さない。

 伸びようとする力の向きを横へ曲げ、開いた穴の縁を避けさせた。

 ほんの少し方向を変えるだけで、同じ場所を再び切る必要がなくなった。


『入口を残せています』


 フィオラの声に、わずかな驚きが混じった。

 精霊殿で動かしたのは、ネアが作った原光だけだった。

 今は物質としての肉体まで動かし、再生へ戻る流れを同時にそらしている。

 試験より負担は大きい。

 それでも、道は閉じなかった。


「入る!」


 セトは二本の剣を胸の前で構え直した。

 黒い四翼が身体を前へ運ぶ。

 淡緑色の二翼は入口へ集まる原光を左右に分けた。

 外へ流れ出る赤い組織の間を抜け、三人は終焉の炎の内部へ入った。


◆ 再突入


 終焉の炎の内部は暗かった。

 赤黒い肉体の中を、発光する導路が何本も走っている。

 その一つ一つに、外から取り込まれた原光が流れ込んでいた。

 セトはシアとのつながりが伸びる方向を確かめる。

 正面だ。

 だが、最短の道に見える場所には、太い導路が何本も重なっていた。


『正面を切れば、大量の原光が周囲から集まります』


 ネアが言った。

 そこを強引に進めば、切り開くたびに大きな傷を作ることになる。

 傷が大きいほど、再生へ向かう組織も増える。

 フィオラがどれほど流れをそらしても、入口まで手が回らなくなるかもしれない。


「右から回れないか?」

『距離は延びますが、あちらの導路は比較的細いです』

『流れを外へ逃がすなら、その方が維持しやすいと思います』


 フィオラも答えた。

 セトは正面の奥を一度見てから、右へ身体を傾けた。


「じゃあ右だ。シアとのつながりを見失わなければいい」


 黒い四翼が向きを変える。

 絶光が右側の肉体を断ち、翔嵐が切断面からの原光を上へそらす。

 外へ排出する組織は、後方の開いた経路へ送り続けた。

 セトは振り返る。

 入口へ続く空間が、まだ残っている。

 後ろの道が細くなれば、いくらシアへ近づいても引き返せなくなる。

 セトは一度だけフィオラの二翼へ意識を向けた。

 無理に広げた気配はない。

 流れを曲げる位置を変えながら、一定の幅を保っていた。


『後ろは開いています』


 フィオラが言った。


「前回より進みやすい」

『私は前方の切断へ集中できますから』


 ネアが答えた。

 強い一撃を繰り返すより、戻れる道を保つ方が重要だった。

 セトは歩幅を緩めず、細いつながりの先へ進んだ。


◆ 残されたつながり


 進むほど、シアとのつながりが強くなった。

 今にも消えそうだった感覚が、少しずつはっきりしてくる。

 同時に、周囲の導路を流れる赤い火も濃くなっていった。


「シアの火が混ざってる」

『はい。あの導路を流れる原光には、シアの性質があります』


 ネアが答えた。

 セトとの接続へ向かおうとする細い流れもある。

 だが、途中で別の導路へ引き込まれ、終焉の炎の全身へ送られていた。

 シアが今、意識してセトへ火を送っているとは限らない。

 精霊剣として残るつながりが、縛炎鎖に横取りされているのだ。

 セトは一瞬、そこへ自分から原光を流して返事を求めようとした。

 しかし、つながりの先を奪っている導路が近くにある。

 送った力まで終焉の炎へ流れれば、位置を確かめる以外の意味を持たない。

 今は自分から呼び続けるより、本人のもとへ行く方が確実だった。


「近い」

『どのくらいですか』

「すぐ先だ」


 そのとき、肉体の壁が大きく揺れた。

 終焉の炎が外で動いたのだ。

 通路全体が斜めに傾き、上から赤い組織が崩れ落ちる。

 セトは絶光を振り上げ、落下物から原光を奪った。

 形を崩した組織を、翔嵐が後方へ流した。

 しかし、今度は正面の導路が膨らみ、赤い火を一度に噴き出した。


『流れがこちらへ向いています!』


 フィオラの声と同時に、セトが絶光を突き出す。

 火の中心から原光が抜け、左右へ分かれた残りを翔嵐が壁の外側へ逃がした。

 流された火が、入口の方へ押し戻される。

 フィオラはその向きを変え、傷の外へ排出した。


『外まで通しました。後ろの道も残っています』

「そのまま頼む」


 セトは正面を見た。

 赤い導路の先に、周囲とは形の違う空間がある。

 細いつながりが、そこへまっすぐ伸びていた。


「いた」



※第62話「救出」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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