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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第62話 救出

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(一)赤い巨体

◆ 赤い巨体


 山々の向こうに、赤い巨体が見えた。

 終焉の炎は、崩れた山の中に立ったままだった。

 大きく移動した形跡はない。


 だが、停止しているわけでもなかった。

 ただれた皮膚の下を太い原光が巡り、背中の赤い四翼へ流れ込んでいる。

 周囲の空気から。地面から。さらに遠くから。

 原光は、今も終焉の炎へ集まり続けていた。


「外から見える状態は、先ほどと大きく変わっていません」


 黒い四翼で飛ぶネアが言った。

 片腕でセトを支え、その隣を淡緑色の二翼を広げたフィオラが飛んでいる。

 風の精霊殿で見た時より、二翼の動きは落ち着いていた。

 フィオラは二翼を使う初めての実戦を前に、何度も原光の向きを確かめている。


「無理に力を出すなよ」

「はい。押し返すのではなく、流れを変えます」


 セトはうなずき、終焉の炎の胸部を見た。

 前回、絶光で大きく切り開いた傷は残っていない。

 完全に元の形へ戻っていた。

 あのとき二人だけで進み、帰り道を失いかけた場所だ。


「シアさんを収めた場所は、胸部の中央付近でしたね」


 フィオラが確認する。


「ああ。少し上だ。研究者の設計図ではな」


 セトは胸部の一点へ目を凝らした。

 内部の形が変わっていても、シアとのつながりまで消えたわけではない。

 今度は、その細い糸を手放さずに進むつもりだった。


◆ 核の位置


「正確な位置は、中へ入ってから確認する必要があります」


 ネアが言った。

 収容部が胸部中央より少し上にあるというのは、起動前の構造を基準にした情報だ。

 巨大な肉体が再生と変形を繰り返した今、同じ形で残っている保証はない。


 セトはシアとのつながりへ意識を向けた。

 細い。

 今にも消えそうなほど細い。

 それでも、まだ切れてはいない。

 つながりが伸びる方角は、研究者が示した位置とほぼ重なっていた。


「聞いた場所と合ってる。あそこから入る」

「前回と同じ経路を進めるとは限りません」

「分かってる。中では、つながりを追う」


 セトは二人を見た。


「ネアが前を切る。フィオラが切ったものと原光を外へ流す。俺がシアを探す」

「はい」

「分かりました」


 ネアとフィオラが順に答えた。

 六翼は、巨体を倒すための力ではない。

 胸の内部へ入り、シアを連れて戻るための組み合わせだ。

 セトは赤い四翼を見上げた。


 その一枚が、わずかに揺れた。

 ただれた顔のような部分が、三人へ向く。

 次いで、巨大な腕が持ち上がった。


「気づかれました」


 腕が山の斜面を削りながら横へ振られる。

 ネアとフィオラは同時に高度を下げた。

 巨腕が頭上を通り過ぎ、遅れて空気が弾ける。

 斜面の木々が倒れ、岩が転がり落ちた。


「一度離れる!」


 ネアが四翼を開いて距離を取る。

 フィオラも横へ並び直した。

 巨体は追ってこない。

 次の腕の動きが、胸部へ潜り込む機会になる。

 待つ間も、セトは胸の一点から目を離さなかった。

 巨体そのものを相手にすれば、いくらでも攻撃する場所はある。

 だが、今日必要なのは最も深い傷ではない。

 シアのところまで続く、帰り道のある傷だった。


◆ 六枚の翼


「次に腕を振った直後、胸部へ入る」


 セトが言った。


「私がセトを運びます。フィオラは横を飛んでください」

「はい」

「胸部へ近づいたところで、二人とも精霊剣になります」


 ネアの説明に、フィオラがうなずく。

 飛ぶための二翼を手に入れてから、まだ長い時間は経っていない。

 それでも、人型のまま並んで飛び、合図に合わせて剣へ変わる動作は、精霊殿を離れる前に確認していた。


「二人とも、いけるか?」

「問題ありません」

「行けます」


 終焉の炎の腕が再び持ち上がった。

 ネアはセトを支えたまま加速する。

 フィオラも右側を並んで飛んだ。

 赤い腕が振り下ろされる。

 二人はほとんど同時に高度を下げ、巨大な手の下を抜けた。

 胸部まで、あとわずか。


「今です」


 ネアの身体が黒い光へ変わった。

 セトは左手を伸ばし、黒い精霊剣を受け取る。

 絶光。

 同時に、黒い四翼がセトの背後へ移った。

 四翼を流れる原光が、空中にいるセトの身体を支える。


 続いてフィオラが淡緑色の光へ変わった。

 セトは右手で細身の精霊剣を受け取る。

 翔嵐。

 二枚の翼が、黒い四翼の少し下へ広がった。

 黒と淡緑。

 六枚の翼は一つの色へ混ざらず、それぞれの流れを保っている。

 左手の絶光には、赤い巨体の原光を断つ役割がある。

 右手の翔嵐には、断った後に戻るものを動かす役割がある。

 二本を持つセトの仕事は、両方の力が届く位置で剣を振ることだった。


『私は再生と防御を抑えます』

『切り離したものは、私が外へ流します』


 絶光のネアと翔嵐のフィオラの声が、順に伝わった。


「役割は変えない。行くぞ」


 セトは二本の精霊剣を構えた。

 六翼が原光を流し、身体が胸部へ向かって加速した。



※第62話「救出」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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