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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第61話 二翼のフィオラ

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(七)道を残す力

◆ 初めての飛行


 フィオラは、二翼へ原光を流した。

 羽ばたく必要はなかった。

 周囲から取り込む流れの向きを、わずかに下へ変える。

 身体が、ゆっくりと地面から離れた。


「浮いています」

「精霊翼による飛行です」


 ネアが答えた。

 これまでも、フィオラは風で身体を押すことができた。

 跳躍した後に落下を緩める。空中で進む方向を変える。地面を蹴るたび、風で加速する。


 だが、それは自由な飛行ではなかった。

 今は、地面を蹴っていない。

 空気を強く押し下げてもいない。

 身体そのものが、外界との原光循環に支えられている。


 フィオラは少し上昇した。

 前へ進む。止まる。後方へ下がる。その場で身体の向きを変える。


 動きはシアやネアほど速くない。

 それでも、空中へ自由に留まり、任意の方向へ移動できた。


「四翼より弱いのですか?」

「出力も、循環量も低いです」

「そうですか」

「ですが、あなたはあなたのままです」


 フィオラは、ゆっくりと地面へ降りた。


「それなら、悪いことばかりではありません」

「体調に変化は?」

「ありません」

「知らない記憶が増えた感覚は?」

「原初の循環については分かります。ですが、私自身の記憶が混ざった感じはありません」


「アイオロスという役割へ引かれる感覚は?」

「ありません」

「翼を消せますか」


 フィオラは循環を身体の内側へ戻した。

 淡緑色の二翼が縮まり、消える。

 再び意識を向ける。

 二枚の翼が、同じ形で開いた。


「問題なさそうです」


 ネアは黒い四翼を消した。


「次は、シアの救出に使えるか確認します」


◆ 道を残す力


 フィオラが二翼を広げる。

 ネアも、再び黒い四翼を展開した。


「終焉の炎の再生は再現できません。まず、原光の流れをどこまで動かせるか確認します」


 ネアは四翼の一枚から、細く抑えた原光を前方へ流した。

 攻撃ではない。

 一定の太さと速度を保った、単純な流れだった。


「これを、中央へ通さないでください」

「分かりました」


 フィオラが両手を上げる。

 二翼から淡緑色の線が伸びた。

 ネアの原光へ、正面からぶつけるのではない。

 流れの周囲へ回り込み、進む方向へ横から触れる。


 ネアの原光が、少しずつ左右へ分かれた。

 中央へ、何も流れない細い隙間が生まれる。


「維持できますか」

「できます」


 ネアが流量を増やす。

 左右へ分かれた原光が、中央へ戻ろうとした。

 フィオラの二翼が淡く強く光る。

 左右の流れは無理に押し広げられない。

 戻ろうとする方向だけを変えられ、中央の隙間を避けて流れていく。


 セトが、その間へ足を踏み入れた。

 原光は左右を流れている。

 中央だけが空いている。


「前へ動かせるか?」

「やってみます」


 フィオラが一歩進む。

 原光の分かれ目も、同じだけ前へ移動した。

 セトは隙間の中を進む。

 後方の流れも、すぐには閉じない。


「これなら、俺が中へ入れる」

「終焉の炎では、肉体の再生も加わります」


 ネアが言った。


「その再生をネアが抑える」

「ああ」

「私は、ネアさんが切り離した組織と原光を外へ流す」

「そうだ」


「セトさんがシアさんまで進む」

「ああ」


 ネアはさらに流量を上げた。

 フィオラの二翼が大きく揺れる。

 中央の隙間が一度細くなった。

 だが、閉じない。


 フィオラは、原光へ力を正面からぶつけなかった。

 流れが戻ろうとする方向を読み、わずかな力で別の方向へ送り続ける。

 四翼ほどの出力はない。

 それでも、流れを動かす精度は高かった。


「もう十分です」


 ネアが原光を止める。

 フィオラは二翼を消さず、その場へ立っていた。


「負担は?」

「あります。ただ、まだ続けられます」

「四翼より循環量は低いですが、今回必要なのは最大出力の攻撃ではありません」


 ネアは、先ほど中央に残った道を見る。


「道を維持するだけなら、二翼でも足りる可能性があります」

「可能性ではなく、足りさせます」


 フィオラが言った。


「無理に出力を上げないでください」

「分かっています。力で押し返すのではなく、戻る流れを別の場所へ送ります」

「それならよいでしょう」

「六翼で行く」


 セトが言った。


「四翼と二翼です」


 ネアが言う。


「力だけなら、八翼には届きません」

「八翼を作るんじゃない」


 セトは、終焉の炎がいる方角へ向いた。


「シアまでの道を作る」


 フィオラが、その隣へ立つ。


「私が、道を残します」


 背後で、淡緑色の二翼が静かに広がった。

 それは、四翼に足りなかった二枚ではない。

 アイオロスという役割にも、ミレナの記憶にも埋もれず、これからもフィオラとして選び続けるための二翼だった。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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