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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第61話 二翼のフィオラ

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(六)二翼

◆ 二翼


 何かが壊れる音はしなかった。

 閉じられていた知識が、静かに開く。

 古い風の流れが、フィオラの中へ入ってきた。


 精霊王が、世界と直接つながっていた頃の循環。

 身体の中だけでは終わらない原光の流れ。

 周囲から取り込み、身体を通し、再び世界へ返す。

 同時に、フィオラは自分の内側へ注意を向けた。


 自分だけが存在すればよいという欲望。ほかの精霊王を消したいという衝動。アイオロスという役割だけへ戻ろうとする流れ。ミレナの記憶へ、自分が飲み込まれる感覚。

 どれも現れなかった。


 フィオラの背後へ、淡緑色の光が広がる。

 一枚。

 もう一枚。

 二枚の半透明な翼が、左右へ斜めに伸びた。


 四方向へ分かれることはない。

 途中で止まったのでもない。

 二枚の翼だけで、周囲から原光を取り込み、身体を通して外へ返す循環が成立している。

 風が、精霊殿の周囲へ広がった。

 白と淡い緑色の衣装の縁が、翼と同じ色へ淡く発光する。


「フィオラ」


 ネアが呼ぶ。


「はい」

「自分の名前は?」

「フィオラです」

「あなたは誰ですか」

「ミレナさんの記憶と、アイオロスの知識を持つフィオラです」


 答えに迷いはなかった。


「ミレナですか」

「違います」

「アイオロスですか」

「それは私の役割です。私の名前はフィオラです」


「セトは誰ですか」

「セトさんです。ミレナさんが選んだ記憶を持っていますが、今の私も自分で選んだ人です」

「シアは?」

「終焉の炎の中にいるシアさんです。これから助けに行きます」


「自分以外のものを消したいと感じますか」

「いいえ」

「自分だけが存在すればよいとは?」

「思いません」


 フィオラは自分の内側を確かめた。

 原初の知識はある。

 外界とつながる循環もある。

 だが、自分だけを残そうとする欲望はなかった。


「原初の欲望はありません」


 ネアは、二枚の翼を流れる原光を観察した。


「知識は開いています」

「では、なぜ二枚だけなのですか」

「分かりません」


 ネアは、まずそう答えた。


「ただ、風の精霊王の役割は、長い間、人間の血統の中にありました」

「はい」

「ミレナさんは、人間として生きながら、風の精霊王の役割も持っていた」

「はい」


「一度、人間の血と、人間としての人生を経由したことで、原初との接続が弱くなった可能性があります」

「それで、四翼ではなく二翼になった」

「推測です」

「原初の欲望が現れなかったのも?」

「同じ理由かもしれません」


 フィオラは、自分の背後へ意識を向けた。


「知識が半分しか開かなかったわけではないのですね」

「はい。開いていない部分が残っているようには見えません」

「残りの二翼が、どこかに閉じているわけでもない」

「二翼だけで循環は閉じています」


「四翼になりかけて、途中で止まったのでもない」

「違います」


 フィオラは淡緑色の二翼を静かに広げた。


「それなら、これが私の翼です」


 ミレナが残した翼ではない。

 アイオロスという役割だけが生み出した翼でもない。

 これからもフィオラとして存在し、フィオラとして選び続けたいと願ったことで開いた翼だった。



※第61話「二翼のフィオラ」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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