(四)言葉では開かない
◆ 言葉では開かない
フィオラは目を閉じた。
黒い四翼を見た後では、先ほどまで何もないように感じていた場所が、はっきりと分かった。
風の精霊王として受け継いだ知識。風の流し方。原光へ方向を与える方法。異なる流れを束ねる方法。世界の中で果たす役割。
その奥に、一か所だけ触れられない場所がある。
知識がないのではない。
そこにあると分かっている。
だが、触れようとすると、意識が横へ滑る。
「見つけました」
「すぐに開こうとしないでください」
ネアが言った。
「まず、境界の状態を確認します」
「はい」
フィオラは、閉じた場所の周囲へ意識を向けた。
押す。反応はない。引く。動かない。
風の流れを作るように、周囲から回り込む。
境界へ近づく前に、流れそのものがほどけた。
「力では動きません」
「私たちの時も同じでした」
「四翼の流れを真似たらどうでしょう」
「試すだけなら」
フィオラはネアの四翼を観察した。
周囲から取り込む。身体の外へ流す。背後で四つへ分け、再び身体へ戻す。
フィオラは、自分の原光を背後へ流した。
淡緑色の線が二つへ分かれる。
さらに二つへ分けようとする。
流れは形を保てず、空気中へほどけた。
「もう一度」
今度は量を減らす。
四方向へ広げようとせず、ネアの四翼が作る循環の一部だけをなぞる。
淡緑色の薄い膜が、一瞬だけ現れた。
だが、すぐに消える。
閉じた知識にも変化はなかった。
「形を真似るだけでは駄目ですね」
「知識が開いた結果として四翼が現れます。外側の形から開くものではないのでしょう」
フィオラは原光を身体へ戻した。
「では、欲望です」
「フィオラ」
「危険なことはしません。思うだけです」
閉じた知識へ触れながら、フィオラは考えた。
消えたくない。
何も起きなかった。
もう一度、強く思う。
消えたくない。
境界は動かない。
「開きません」
「今のあなたは、消えようとしていません」
「分かっています」
「言葉だけでは意味がありません」
「では、シアさんを助けたい」
フィオラは、終焉の炎の中にいるシアを思い浮かべた。
縛られ、力を奪われ、巨大な兵器の核として使われている。
助けたい。
自分の力が必要なら、助けに行きたい。
閉じた場所へ意識を押し当てる。
何も変わらない。
「これも違います」
「目的だけでは、鍵にならなかったのでしょう」
「力が欲しい」
フィオラは試した。
今より強い力が欲しい。道を維持できる力が欲しい。四翼が欲しい。
境界は閉じたままだった。
「違いますね」
フィオラが目を開いた。
「無理に続ける必要はない」
セトが言った。
「同じことを繰り返しても開かないと思います」
「だったら、一度やめる」
「いいえ」
フィオラは首を横へ振った。
「試し方を間違えています」
※第61話「二翼のフィオラ」は全七回です。
続きます。
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