↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第61話 二翼のフィオラ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
381/425

(三)話さなかった危険

◆ 戻ってください


『フィオラ』


 遠くを走っていたフィオラへ、ネアの念話が届いた。

 フィオラは足を止めなかった。


『止めるのでしたら、戻りません』

『止めません』


 足元の風が乱れた。

 フィオラの速度が落ちる。


『ただし、一人では開かないでください』

『なぜですか』

『危険だからです』

『それは、先ほどから分かっています』

『戻ってください』


 ネアの念話では、長い説明を送ることはできない。

 言葉と一緒に伝わるのは、短い意志だけだった。


 止めない。

 一人ではやらせない。

 異常が起きれば、自分たちが止める。


『セトさんの判断ですか』

『はい』

『ネアさんも同意していますか』


 ネアは一度、目を開いた。

 隣でセトが待っている。

 もう一度、目を閉じた。


『一人で行うよりは、まだ安全です』


 しばらく返事はなかった。


『戻ります』


 念話が切れた。


「戻るそうです」

「そうか」


「一度逃げた相手へ、ずいぶん簡単に判断を任せますね」

「戻ってくるなら、任せてもいい」

「戻らなければ?」

「追う」


 ネアは小さく息を吐いた。


「最初からそうしてください」


 間もなく、精霊殿の外から風が近づいた。

 フィオラは、来た時と同じように風で身体を押しながら戻ってきた。

 二人の前で速度を落とし、地面へ立つ。


「本当に止めないのですか?」

「止めない」


 セトが答えた。


「許可してくれる、ということですか?」

「違う」

「違うのですか?」

「危険だから、俺たちの前でやってくれ」


 フィオラは少し考えた。


「危険なことをしてよいとは言わない。しかし、私が隠れて行うよりは、ここで行う方がよい」

「そうだ」

「何か起きれば、止める」

「ああ」


「力を失う可能性があっても?」

「ああ」

「私自身が変わる可能性があっても?」


 セトは、すぐには答えなかった。


「変わり始めたら、戻す」

「戻せるのですか?」

「分からない」

「では、止める?」

「止める」


 フィオラはセトの目を見た。


「分かりました」


◆ 話さなかった危険


 三人は、風の精霊殿から少し離れた開けた場所へ移った。

 周囲に人はいない。

 何かが起きても、すぐに被害が広がらない場所だった。


「最初に、見てもらいます」


 ネアがフィオラの前へ立つ。

 黒い原光が、背後へ広がった。


 右上。左上。右下。左下。

 四枚の半透明な黒い面が、大きなX字を作る。


 羽毛ではない。

 光を通しているはずなのに、翼がある部分だけが欠けて見えるほど深い黒。

 翼の間を細い黒線が走る。

 周囲に満ちる原光が翼へ入り、ネアの身体を通り、再び外へ流れていく。

 フィオラは、黒い四翼から目を離さなかった。


「これが、ネアさんの四翼」

「はい」

「見たことはありません。ですが……」


 フィオラは言葉を止めた。

 知らないはずだった。

 それでも、四翼を流れるものが、何をしているのか少しだけ分かる。


 周囲から原光を取り込んでいる。身体の外側へ循環を作っている。精霊王という存在を、世界と直接つないでいる。


「知っています」


 フィオラが言った。


「見たことはないのに、知っている気がします」

「私たちも同じでした」


 ネアが答えた。


「光の精霊王が四翼を使っているのを見て、シアと私は、自分たちもあの翼を知っていると感じました」

「その時に、閉じられた知識を見つけたのですか?」

「存在に気づいただけです」


 ネアは黒い四翼を広げたまま続ける。


「知っているはずなのに、内容へ届かない。開こうとしても、別の知識へ押し戻される。意図的に閉じられているとしか思えませんでした」

「鍵を見つけたのは?」

「後です」


 ネアの声が少し低くなる。


「シアが先に開きました。身体を何度も貫かれ、治癒する力も尽きかけ、本当に消滅する直前でした」


 フィオラは黙って聞いている。


「その時、シアは消えたくないと願いました」

「消えたくない」

「はい。それが知識の鍵を外しました」

「では、ネアさんも?」

「私には、シアが鍵を開けた感覚と、開け方が伝わりました。ただし、私が開いた時も、開かなければ消滅する状況でした」

「同じ言葉を思えば開くのですか?」

「違います」


 ネアは即座に否定した。


「言葉が鍵ではありません。本当に自分が消える状況で、自分自身が消えたくないと望んだ。その欲望が鍵になったのだと思います」

「思います?」

「今でも、完全には分かっていません」


 黒い四翼がわずかに揺れる。


「少なくとも、言葉だけを真似ても開かないでしょう」

「同じ状況を作ることもできない」


 セトが言った。


「ああ」

「作らない」


 フィオラは二人を見る。


「だから、私には話さなかったのですね」

「そうです」


「四翼を得るには、消滅する直前まで追い込まれる必要があるかもしれない」

「私たちと同じ開け方なら」

「それは試せませんね」

「はい」

「ですが、知識は私の中にもある」


 フィオラは、もう一度ネアの四翼を見る。


「別の形で鍵を外せるかもしれない」

「その可能性はあります」

「なら、探してみます」



※第61話「二翼のフィオラ」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。