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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第61話 二翼のフィオラ

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(二)逃げた風

◆ 足りない力


「分かりません」


 ネアが答えた。


「終焉の炎の再生速度は、通常の精霊王を相手にする場合とは比較になりません。流れをそらすだけでも、相当な出力が必要になります」

「試すことはできますか?」

「原光の流れを動かす試験はできます。ただ、終焉の炎の肉体と再生を、ここで再現することはできません」

「今の私で足りなかった場合は?」

「別の方法を探す」


 セトが答えた。


「どのような方法ですか?」

「まだ分からない」

「シアさんを助けるには、時間がありません」

「分かってる」


「終焉の炎が動き始めれば、周囲にも被害が出ます」

「ああ」

「それでも、別の方法を探すのですか?」


 セトは答えなかった。

 フィオラはネアへ顔を向ける。


「ネアさんは、私より強い」

「四翼がありますから」

「シアさんにも四翼があります」

「はい」

「以前のお二人には、翼がありませんでした」


 ネアの表情は変わらなかった。

 だが、返事が少し遅れた。


「そうですね」

「光の精霊王との戦いの途中で、二人とも四翼を得た」

「はい」


「分霊核を集めたことだけが理由ではありませんね」

「分霊核は、精霊翼を得るためのものではありません」

「では、何をしたのですか?」


 ネアは答えなかった。

 フィオラはセトを見る。


「セトさんも知っていますね」

「知ってる」

「私には話さない?」

「ああ」


 セトは否定しなかった。


「危険だからですか?」


 二人とも答えなかった。

 その沈黙だけで十分だった。

 フィオラは、わずかに目を伏せる。


「お二人が四翼を得た方法には、危険がある」

「フィオラ」


 ネアが名を呼ぶ。


「今は、私たちの話を聞いてください」

「聞いています」

「あなたに必要なのは、終焉の炎の中で流れを維持する力です。四翼と同じものが必要だと決まったわけではありません」

「ですが、今の私では足りない可能性がある」

「はい」


「強くなる方法はある。しかし、私には話せない」

「その方法で強くなれるとも限りません」

「できないとは言わないのですね」


 ネアの目が、ほんのわずかに細くなった。

 フィオラは、その変化を見ていた。


「精霊王には、代々受け継がれる知識があります」

「あります」

「私の中にもあります」

「はい」

「普段は、知ろうとすれば知ることができる。風の流し方も、精霊王としての役割も、最初から知っていました」


 フィオラは自分の胸元へ手を当てた。


「ですが、知っているはずなのに、触れられない場所があるのではありませんか?」


 セトが、わずかに息を止めた。

 ネアは動かなかった。

 フィオラは、二人の顔を順に見る。


「あるのですね」

「何も答えていません」

「答えないことが答えになっています」

「違う可能性もあります」

「それなら、違うと言えばよいはずです」


 ネアは黙った。

 フィオラは小さくうなずく。


「分かりました」

「何がですか」

「自分で確かめます」


◆ 逃げた風


 フィオラの足元から風が広がった。


「フィオラ!」


 セトが手を伸ばす。

 風はセトとネアへ向かわなかった。

 二人の間を抜け、地面を這い、フィオラ自身の身体を後方へ押す。

 フィオラは床を蹴た。

 一歩で大きく距離を取り、そのまま精霊殿の外へ駆け出す。


 自由に飛んでいるわけではない。

 風で身体を前へ押し、着地のたびに次の跳躍へつなげている。


 ネアの背後へ、黒い原光が集まった。

 四翼が開きかける。


「待ってくれ」


 セトが言った。


「追えば、すぐに捕まえられます」

「分かってる」

「知識の場所へ気づきました。放置すれば、本当に開こうとします」

「それも分かってる」

「では、なぜ止めるのですか」


 フィオラの姿は、すでに精霊殿の向こうへ消えていた。

 セトは、彼女が消えた方角を見た。


「今捕まえて、どうする」

「拘束します」

「いつまで?」


 ネアは答えなかった。


「シアを助けるまで閉じ込めるのか」

「必要であれば」

「その後は?」

「……見張ります」

「ずっとは無理だ」


 フィオラは、自分の中に何かがあると知った。

 それが強くなる方法へつながることも分かっている。

 シアを助けるために、自分の力が足りない可能性も知っている。


「ここで止めても、次は俺たちの見えないところでやる」

「必ずそうするとは限りません」

「やらないとも思えない」


 ネアも否定しなかった。


「だったら、俺たちが止められるところでやらせる」

「安全になるわけではありません」

「だから近くにいる」


「失敗すれば、フィオラがフィオラではなくなる可能性があります」

「ああ」

「シアと私が、そうなりました」

「ああ」


「それでも?」

「一人でやらせるよりはいい」


 ネアは、フィオラが消えた方角へ意識を向けた。


「止めないと伝えるのですか」

「一人ではやるな。戻れって伝えてくれ」

「詳しい理由までは念話で送れません」

「それでいい。戻ってから話す」


 ネアは目を閉じた。



※第61話「二翼のフィオラ」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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