(一)風の精霊殿
◆ 風の精霊殿
黒い四翼が、風の精霊殿の前へ降りた。
セトの足が地面へ着く。
その直後、四枚の翼が縮まり、黒い精霊剣が人の姿へ戻った。
ネアの長い黒髪と羽衣が、遅れて地面へ降りる。
セトは、終焉の炎がいる方角を振り返った。
山々に遮られ、ここから赤い巨体は見えない。
それでも、空気中に漂う原光が、遠くの一点へ引かれているのは分かった。
終焉の炎は、今も周囲から原光を取り込み続けている。
「セトさん。ネアさん」
精霊殿の中から、フィオラが出てきた。
白と淡い緑を基調とした衣装の裾が、風もないのにわずかに揺れている。
二人を見た直後、銀緑色の瞳が周囲へ向いた。
「シアさんは?」
「捕まってる」
セトが答えた。
フィオラの視線が止まる。
「捕まっている?」
「終焉の炎という生体兵器の中だ」
「生体兵器……」
「シアを核にして動いてる」
フィオラは口を挟まず、続く説明を待った。
セトは、終焉の炎へたどり着いてから見たものを話した。
山を崩して現れた赤い巨体。四枚の赤い翼。光の精霊王の残骸から作られた肉体。絶光で切断しても、すぐに塞がる傷。そして、その巨体の内側にシアがいること。
「一度、中へ入った」
「シアさんのいる場所まで届いたのですか?」
「届かなかった」
セトはしゃがみ、地面へ指で一本の線を引いた。
「俺が前を切った。ネアが再生を抑えた。でも、進んだ後ろから閉じた」
線の先を指でなぞり、その後ろを手のひらで消す。
「前へ進むだけなら、もう少し行けた」
「ですが、戻れなくなる」
フィオラが言った。
「ああ」
「シアさんへ到達できたとしても、外へ連れ出せません」
「そうだ」
ネアも地面へしゃがむ。
「切断した肉体だけではありません。原光の流れも、切った場所へ集まっていました」
線の両側から、中央へ向かう複数の線を描く。
「絶光で一つの流れを断っても、別の経路が作られます。私がすべてを抑えようとすれば、セトが進むための攻撃へ力を回せません」
「原光を、切断した場所から遠ざける必要があるのですね」
「はい」
「切り離した肉体も、外へ流す」
「はい」
「ネアさんが再生を抑え、セトさんが進む。その間、私が道を閉じさせない」
フィオラは、地面へ描かれた線を見つめた。
「そのために、私のところへ来たのですね」
「頼みたい」
セトが言った。
フィオラは、すぐには答えなかった。
「今の私で、足りますか?」
セトとネアの間に、短い沈黙が生まれた。
※第61話「二翼のフィオラ」は全七回です。
続きます。
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