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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第60話 神の目の内側

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(七)足りない役割

◆ 足りない役割


「力だけなら、八翼が必要です」


 ネアは先ほどの侵入を思い返した。


「ですが、足りなかったのは力だけではありません」

「前へは進めた」

「後ろを維持できませんでした」

「俺が前を切る。ネアが再生を止める。それだけで手いっぱいだった」


 セトは地面の図へ、外側からシアの収容部へ向かう一本の道を描いた。

 その道の後ろへ、すぐ閉じる壁を付け足す。


「切った肉が戻る前に、外へどかせばいい」

「組織だけではありません。再生へ向かう原光も別方向へ流す必要があります」

「切るだけじゃ駄目で、戻るものを流し続ける役がいるんだな」

「ええ。私が再生を抑えている間、その道を保てる者です」


 セトが思い浮かべたのは、風の精霊王だった。

 切った組織と原光を一か所へ集めず、外へ送り出す。

 力を増やして突き破るのとは別の仕事だ。


「フィオラだな」

「はい。流れの制御なら、あの子に頼めます」

「フィオラの風で、あの再生に対抗できるか?」

「切断した組織と原光を外へ流すことはできます。ただ、通路を維持し続けられるかは、実際に試してみないと分かりません」

「なら、まず頼んでみよう。足りなければ別の手を考える」

「はい」


 セトは地面に描いた道を、もう一度指でなぞった。

 前を切り開くのは自分たちの役目。

 フィオラには、切断した組織と原光を外へ流してもらう。

 その役割を、まずは本人へ説明する必要があった。


「フィオラには、今の状況と何を頼みたいのか、ちゃんと話そう」

「ええ。ただ、どこまで話すかは考えておくべきです」


 ネアは少し言いよどんだ。


「原初の知識については、話さない方がよいでしょう」

「ああ。シアもネアも、あれで自分を失いかけた」

「必要だからといって、フィオラへ同じ危険を勧めることはできません」


「まず、道を保ってほしいと話す。力が足りなければ別の方法を探す」

「何かを隠していると気づくかもしれません」

「聞かれても、こっちから開き方は教えない」

「それで諦めるかは、フィオラ次第です」


 セトは地面の図を見下ろした。

 シアを助けたいからといって、別の仲間を危険へ押し込むわけにはいかない。

 できることと、やらせてよいことは違う。


「フィオラへ連絡する」


 ネアがうなずく。

 セトは研究者たちへ向き直った。


「あなたたちは、ここを離れろ。国の者が来たら知っていることを全部話せ」

「分かりました」

「逃げた責任者たちのこともだ」

「はい」

「俺たちはシアを助ける」


 終焉の炎は動かなかった。

 ただ赤い四翼を広げ、周囲から原光を取り込み続けていた。


◆ 神の目の内側


 シアの前には、虹色の玉が浮かんでいた。

 外で何が話されているのかは聞こえない。

 神の目という名称も知らない。


 ただ、セトとネアが遠ざかり、別の方向へ動き始めたことは見えていた。

 平らな世界の中で、二人の姿は小さい。

 それでも、見失うことはなかった。

 二人が何のために離れたのか、何を話し合っているのかまでは分からない。

 だが、あのまま無理に突き進まず、無事に戻ったことを知っている。

 その事実だけは、平らな視界とは別に、確かなものだった。


 自分だけが残ればよい。

 欲望は、まだ流れ込んでいる。

 世界を見下ろし、すべてを自分で判断しろと求めてくる。


「しつこい」


 シアは縛炎鎖を引いた。

 鎖は緩まない。

 火を出せば終焉の炎へ奪われる。

 セトとのつながりへ流そうとしても、途中で接続先を変えられる。

 それでも、つながり自体は消えていない。

 縛炎鎖を引くたびに痛みが返る。

 四翼へ流れ続ける原光も、シア自身が止めようとして止められるものではなかった。

 考えることに集中していても、身体の負荷が少しずつ増している。


 セトはまた来る。

 ネアも来る。

 誰かを連れてくるのかもしれない。


 シアは虹色の玉を見た。


「私だけになったら、来る相手がいなくなる」


 返事はない。


「だから、いらない」


 欲望を消すことはできない。

 世界が平らに見える感覚も止められない。

 虹色の玉も、目を閉じたところで消えない。

 それでも、それらを自分自身だと認める必要はなかった。

 見えている世界がどれほど広くても、今ここでシアが選べる答えまで、勝手に決めさせはしない。

 いつまで意識を保てるのかも分からない。

 それでも二人が戻るまでは、流れ込む欲望に返事をし続けようと思った。


 外では、その部品が神の目と呼ばれていた。

 内側でシアは、目を閉じたまま、虹色の小さな玉を見ていた。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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