(六)神の目
◆ 神の目
「終焉の理の内部へ置いたものは何ですか」
ネアが尋ねた。
研究者は、すぐには答えなかった。
「名称だけは残っています」
「名称は?」
「神の目です」
セトが眉を寄せた。
「神の目?」
「そう記されていました」
「どういうものだ」
「具体的な作用は、私たちには知らされていません」
研究者は、答えられる範囲を慎重に選んでいた。
「終焉の理を成立させるために必要なものだとされています。どこかの遺跡から発掘されたものらしいのですが、どの遺跡なのか、誰が発掘したのかまでは残っていません」
「何のために作られたものかも?」
「本来の用途も効果も不明です。責任者側が試験していたはずですが、私たちには結果が共有されていません」
「実物を調べなかったのか?」
「収容部への配置も試験も、研究責任者たちが行いました。私は見たことがありません」
研究者は、終焉の理を示す四角い枠から指を離した。
名前と組み込む位置は知っていても、発掘部品の姿も、試験中に何が起きたかも知らされていない。
「主要な記録はどこにある?」
「先ほど逃げた責任者たちが、設計図の写しと一緒に持ち出しました」
「どこへ逃げた」
「東です。受け入れる者がいると話していました」
セトは一度、東の空を見た。
「今は追えない」
「はい」
「神の目が、具体的に何をしたかは分からない」
ネアが確認する。
「そうです。設計図で必要部品と指定されていた。それ以上は説明できません」
名称以外の情報は、ほとんどなかった。
目と呼ばれている。
だが、何を見るのかも分からない。
そもそも見るためのものなのかさえ分からなかった。
◆ 持ち出された記録
「残された記録はあるのか?」
セトが尋ねると、研究者は抱えていた紙束を開いた。
縁が破れた記録用紙に、起動直前からの測定値が並んでいる。
流入量の変化。最大放出を検出した時刻。その後に上昇した出力。
「現場で取ったものは、これだけです。設計図の写しや主要な試験記録は責任者たちが持ち出しました」
「この数字から止め方は分からない?」
「止めようとして外部導入を遮断しましたが、本体は動き続けました。その結果なら記録しています」
研究者の声に、先ほどの歓声はもうなかった。
起動成功の記録は残っている。
だが、記録が示すのは動いた事実ばかりで、止める手順ではない。
「供給を止めた後、本体の出力は?」
「下がっていません。測定器の上限を越えていて、正確な値も読めない状態です」
「別に止める操作は?」
「私たちが設計図から確認できたのは、外部導入を遮断する操作までです」
「なら、止め方を調べるのも、いつ終わるか分からないな」
「今は、シアまで届く方法を探すべきです」
ネアが言うと、セトは紙束から視線を上げた。
赤い巨体は遠くで動きを止めているが、四翼を通る原光は弱まっていない。
「ここで待つわけにはいかない」
セトは収容部の位置だけをもう一度確かめた。
研究者たちには、残された記録を捨てず、国の調査へ渡す役目がある。
それとシアの救出は、同じ場所で続けなければならない仕事ではなかった。
◆ 四翼の中の八翼
ネアは終焉の炎へ向き直った。
赤い四翼から、膨大な原光が巨体の各部へ流れ込んでいる。
翼の枚数は四枚。
だが、腕を動かすだけで山肌が崩れた時、その腕を通った原光は通常の四翼が一度に扱う量を超えていた。
「大きいから強いだけじゃないんだな」
「ええ。質量だけでは説明できません」
「どのくらいの力がある?」
「一度の攻撃に限れば、シアと私の八翼に近い可能性があります。ただし、正確な比較はできません」
ネアの答えに、研究者が顔を上げた。
「四翼なのに?」
「四翼が二組あるわけではありません。八翼ほど細かく制御できるかも不明です。単発の出力が近いという推測です」
巨体には再生能力もある。
さらに周囲から原光を取り込み続け、動きを止める気配がない。
セトたちの八翼は強力だが、人間であるセトへの負荷が大きく、長くは保てなかった。
終焉の炎にも同じ制限があるかは分からない。
「力勝負を始めても、こっちが先に限界になるかもしれない」
「はい。それに、どれほど強く切っても、内部のシアを巻き込む危険があります」
「八翼が使えない今は、なおさらか」
先ほどの突入でぶつかった問題は消えていない。
セトは握った手を開き、地面の図へ目を戻した。
必要なのは、より強い一撃ではなく、内部へ入ってからの仕事を変えることだった。
※第60話「終焉の炎」は全七回です。
続きます。
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