(四)残された研究者
◆ 残った研究者
終焉の炎から距離を取ったセトは、絶光を解いた。
ネアが人の姿へ戻る。
七つの分霊核も黒い光を弱めた。
少し離れた岩陰に、数人の研究者が残っていた。
逃げていった者たちとは違う。
荷物を持っていない。
崩壊した施設と赤い巨体を、青ざめた顔で見上げている。
その手には現場で取った観測記録が残り、指先は土と墨で汚れていた。
逃げずに残った理由を尋ねる前に、聞かなければならないことがある。
そのうちの一人が、セトたちへ近づいた。
「先ほどは……」
「細かい話はあとだ」
セトは研究者の言葉を止めた。
「あれは何だ」
研究者は、一度だけ終焉の炎を振り返った。
「古代文明の設計図に記されていた生体兵器です」
「古代から残っていたものではないのか?」
「違います。設計図を基に、私たちが作りました」
セトは黙った。
研究者は視線を下げる。
「設計図上の名称は、終焉の炎です」
「止める方法は?」
「分かりません」
「作ったのに?」
「起動後の停止手順は、設計図から見つかりませんでした」
研究者の声が震える。
「起動するとは思っていなかったのです」
セトは一歩近づいた。
「起動しないと思っていたから、シアを捕らえてもよかったのか」
「違います」
「何が違う」
研究者は答えられなかった。
自分が起動しないと思っていたことと、製造に手を貸したことは別だと、本人にも分かっているようだった。
ネアが終焉の炎へ顔を向けたまま言う。
「責任については後です。今はシアを救うための情報を出してください」
「はい」
「知っていることと、推測を分けて話してください」
研究者はうなずいた。
◆ 部品としてのイフリート
「設計図では、終焉の炎の核としてイフリートが指定されていました」
「ほかの精霊王では駄目なのか?」
「イフリートと明記されています。ほかの精霊王で代用できるとは書かれていません」
「理由は?」
「指定の理由は不明です。私たちは、膨大な火力を供給するためだと考えていました」
ネアが研究者を見る。
「起動前は、外部からシアへ原光を流していましたね」
「はい。設計図に、核へ一定量以上の原光を導入するよう記されていました」
「そして、シアが耐えられず放出した」
「最大放出を起動条件として検出する機構がありました」
研究者は地面に簡単な図を描いた。
外部から内側へ向かう線。中央の核。そこから外へ広がる四本の線。
「外から原光を流し、イフリートに最大放出を起こさせる。放出が確認されると、終焉の炎の各部が核へ接続される。設計図では、そのようになっていました」
「四翼が出ることも書かれていたのか?」
「図はありました。ただ、それが本当に精霊王の四翼と同じものなのかは分かりませんでした」
ネアは赤い巨体の四翼へ意識を向ける。
「流れはシアのものです」
「シアの四翼を、そのまま外へ出している?」
「完全に同じとは言えません。ですが、あの四翼へ流れている原光はシアを通っています」
研究者が続ける。
「外部からの原光導入は、すでに停止しました」
「それでも動いているな」
「はい。現在は終焉の炎自体が、周囲から原光を取り込んでいます」
「仕組みは?」
「分かりません。設計図に、起動後は外部導入を停止できると記されていました。しかし、周囲からどう取り込むのかまでは読み解けませんでした」
ネアは空へ薄く手を伸ばした。
赤い巨体を中心に、広い範囲の原光がゆっくりと引かれている。
「現象としては、間違いありません」
※第60話「終焉の炎」は全七回です。
続きます。
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