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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第60話 神の目の内側

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(三)偽りの欲望

◆ 一人だけ


 自分だけが残ればよい。

 唐突に、そう思った。

 シア以外のものは必要ない。

 薄い世界に並んでいるものは、すべてシアではない。


 人間も。魔物も。精霊王も。山も海も。


 自分ではないものは、自分とは違う。

 違うものを残す必要はない。

 消してしまえばよい。


 そうすれば、世界を判断するものはシアだけになる。

 シアが正しいと思ったものが正しい。

 シアがいらないと思ったものはいらない。

 自分だけになれば、異なるものに邪魔されることはない。

 薄い世界の上にある町へ火を放ち、山も道も消してしまう光景が、考えようとするより先に浮かんだ。

 なぜそんなことを望むのか、と問い返す間もない。

 見えているものを壊すことが、当然の続きであるかのように思わされる。


 疑う必要もない。

 確かめる必要もない。

 自分以外のものがなくなれば、間違いもなくなる。


 強い欲望だった。

 原初の知識を開いたときのものに似ている。

 自分こそが唯一の火であり、ほかの精霊王を消すべきだと思った、あの欲望。


 向かう先は同じだった。

 強さも弱くない。

 シアの思考を押し流し、自分だけを残すという結論へ引きずっていく。


 それでも、シアには分かった。


「偽物だ」


 弱いからではない。

 作りが粗いからでもない。

 本物より簡単に抗えるからでもない。

 欲望の始まった場所が違う。


 原初の欲望は、シアの内側から湧いた。

 最初から自分の中にあり、それまで見えなかったものが表へ出てきた。

 今の欲望は違う。

 平らな世界を見た後から、外側より押し込まれてきた。


 シア自身の考えを使っている。

 シア自身の言葉で結論を作っている。

 それでも、シアの内側から始まっていない。


「これは、私の欲望じゃない」


 欲望は消えなかった。

 見抜いたからといって弱まらない。

 自分だけが残ればよいという考えは、変わらずシアの中へ流れ込んでいる。

 ただ、それを自分自身の考えだと受け入れる必要はなかった。


◆ 黒い傷


 平らな世界の一部へ、黒い線が走った。

 赤い巨体の胸が裂ける。

 絶光だった。


「ネア」


 黒い四翼の中心にセトがいる。

 二人が終焉の炎の中へ入ろうとしていた。

 シアには外側の傷と、内部へ通る原光の流れが同時に見えている。

 絶光が断った場所には確かに空白ができた。

 だが、そこを迂回する導路から原光が集まり、赤黒い組織が傷の縁を埋め始める。

 断たれた流れがそのまま戻ったのではない。

 別の流れで補っているのだ。


「そこじゃない! ほかから戻ってる!」


 声は閉じた空洞に反響しただけだった。

 セトたちが進めば、入口を残すための力も必要になる。

 前へ進む二人と、後ろから塞がる組織。

 シアには両方が見えていたが、どちらへも手を貸せない。


 シアは、細く残ったセトとのつながりへ意識を向けた。

 火を流せば、少なくとも自分がここにいると知らせられるかもしれない。

 しかし、送りかけた火へ縛炎鎖が割り込み、終焉の炎の全身へ散らしてしまう。


「そっちじゃない!」


 流す量を変えても結果は同じだった。

 セトの声は音として届かない。

 それでもつながりが揺れ、二人が自分を探しているのは分かる。

 やがて黒い線が巨体の外へ抜け、裂け目が閉じた。


「逃げたんじゃない」


 届かないと分かったまま進み続けるセトではない。

 ネアと一緒に、別の方法を探しに戻ったのだ。

 見えているのに伝えられなかったことが悔しい。

 だが、二人が生きて戻ったことだけは、今のシアにも確かめられた。

 自分だけが残ればよいという欲望が、また流れ込んできた。


「残らない」

「私だけにはならない」



※第60話「終焉の炎」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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