(一)自分を見ている
◆ 自分を見ている
終焉の炎が起動した瞬間、シアは自分を見ていた。
目の前に鏡があるわけではない。
身体から抜け出したわけでもない。
巨大な空洞の中で、縛炎鎖に固定されている自分が見える。
正面が見えた。背中も見えた。
小さく残っていた赤い四翼が大きく開き、そこから大量の原光が流れ出している。
腕と脚へ巻きついた鎖。身体を通過する赤い導路。シアの周囲へ固定された七つの分霊核。
それらすべてが、一度に見えていた。
鎖がどの腕を締め、どの核へ導路が伸びているかも分かる。
それなのに、自分の身体から眺めている時より自由になった気はしなかった。
四翼から力を出し続けている感覚と、その四翼を外から見ている感覚が重なっていた。
「……なんだ、これ」
声を出したはずだった。
だが、その声を発した自分を、別の場所から見ている。
口が動く。
喉が震える。
音が空洞へ広がる。
聞こえている。
同時に、音を出している自分も見えている。
どこから見ているのか分からなかった。
上からではない。
横からでもない。
シアの前に、もう一人のシアがいるわけでもない。
見る方向を決めようとすると、正面も背後も同じように見えた。
右腕に力を込めれば、鎖が食い込む感触がある。
その右腕も鎖も、動いた瞬間の形まで見える。
自分で動かした結果を、まったく別の場所から確かめているようだった。
「気持ち悪い」
目を閉じた。
何も変わらない。
閉じた目蓋も見えていた。
視界が消えたわけではない。
見ているものを見ないことさえ、思いどおりにならなかった。
◆ 遠すぎる
見えている範囲が広がった。
シアを収めている空洞。
その周囲にある赤黒い肉。
そこを巡る原光の導路。
巨大な身体の外側。
崩れた山。
離れた谷。
さらに遠くの森と街道。
どこまでが近く、どこからが遠いのか分からない。
山の向こう側まで見えている。
岩や土を透かしているようには感じなかった。
壁を抜けて見ているわけでもない。
最初から、壁に隠されていなかったものを見るような感覚だった。
シアは遠くへ意識を向けた。
すると、さらに遠くが見える。
山々の先。雲の下にある小さな町。そこから伸びる道。道を歩く人間。
顔までは分からない。
だが、そこに人間がいることは分かった。
誰が歩いているのかも、何を話しているのかも分からない。
知っている土地なのかさえ、すぐには判断できなかった。
近くの鎖は細部まで見えるのに、遠方について分かるのは、そこに何かが存在するということだけだった。
もっと遠くへ向けようとする。
それもできそうだった。
どこまでも見えるような気がする。
同時に、これ以上見てはいけないような感覚もあった。
見ようとすれば、まだ先がある。
だが、どれだけ遠くが見えても、縛炎鎖が一本でも緩むわけではない。
できることが増えたというより、知らなくてもよかった遠さを突きつけられている。
「戻れ」
シアは自分へ言った。
何を戻せばよいのか分からない。
視線ではない。
目を動かしているわけではない。
遠くを見ようと思えば遠くが見え、自分を見ようと思えば自分が見える。
だが、見ること自体をやめられなかった。
※第60話「終焉の炎」は全七回です。
続きます。
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