(六)精霊剣なら
◆ 二本目を見るな
祖父が再び踏み込んだ。
木剣が右から来る。
セトは白刃で受ける。
今度は黒刃を動かさない。
木剣を外へ流し、白刃で斬り返す。
祖父は下がらず、空いている手で木片を投げた。
木片には、わずかな精霊力がまとわせてある。
左から飛んでくる。
セトは黒刃を向けた。
触れた瞬間、木片を包んでいた精霊術が崩れる。
力を失った木片が地面へ落ちた。
「今のだ」
祖父が言う。
「見てから動かした」
「最初はそれでいい」
再び木剣。
次は木片。
正面へ白刃。
横へ黒刃。
それぞれに意識を向けようとすると、動きが遅れる。
「二本目を見るな」
「見なければ当たらない」
「一本目と同じように見ようとするから遅い」
左手は、目で追う前に動かす。
右手で剣を振りながら、左手は相手の術が通る場所へ置く。
「右手と左手を別々に動かすだけだ」
「簡単に言うな」
「子供の頃からやっている」
◆ 剣術の必要
何度目かの打ち合いで、祖父の木剣がセトの肩へ当たった。
「痛い」
「精霊術ばかり見ているからだ」
「今は精霊術の訓練だろ」
「二刀になれば、足の位置まで二つになると思ったか」
剣が一本でも二本でも、体は一つしかない。
右で斬る時に、左肩がどこへ動くか。
黒刃を差し込む時に、白刃の間合いを失わないか。
二本を扱うには、精霊術の制御だけでなく、体の動かし方を作り直す必要がある。
「剣状精霊術を覚える者がいない理由が分かったか」
シアが言う。
「今さらだな」
「術を二つ出せても、剣術がなければ使えない」
「ああ」
グラウスは、二本を出せるだけではなかった。
魔剣と白刃。
魔剣と黒刃。
役割の異なる二本を、剣技の中へ組み込んでいた。
経験の差は大きい。
「数日で追いつける相手ではない」
祖父が言う。
「それでも、何もしないよりはましだ」
◆ 休むシア
稽古が終わる頃には、日が傾いていた。
セトは白刃と黒刃を消した。
両腕が重い。
特に左手の感覚が鈍くなっている。
「初日としては悪くない」
祖父が言う。
「何日やるつもりだ」
「使えるまでだ」
「シアの力が戻る方が先かもしれないな」
軒下を見る。
シアは壁へ寄りかかったまま、目を閉じていた。
「寝たのか」
「起きている」
「なら返事をしろ」
「疲れた」
「見ていただけだろ」
「火を集めている」
シアの周囲には、目に見えないほど小さな火の精霊が集まり始めていた。
失われた力を、少しずつ補っている。
「どれくらい戻った」
シアが指を上げる。
小さな赤い光が生まれた。
一瞬だけ火になり、すぐに消える。
「昨日よりはましだ」
「戦えるか」
「無理だ」
シアは素直に答えた。
◆ 精霊剣なら
その夜。
セトとシアは再び同じ部屋にいた。
祖父から借りた記録が、二人の間に置かれている。
「精霊剣なら、グラウスの魔剣に勝てるのか」
セトが尋ねた。
「出力だけなら、対等以上に戦える」
「古い魔剣に、先代とお前の火が入っていても?」
「簡単ではない」
だが、生きた精霊剣には、魔剣にないものがある。
精霊王本人が力を制御する。
使い手の動きに合わせ、必要な場所へ必要な量だけ力を流せる。
魔剣のように、持ち主が外から無理に力を引き出す必要がない。
「剣が生きているから強い?」
「力の量だけではない」
白炎では、シアがセトへ火を渡し、セトが白刃の形を保つ。
精霊剣では、シア自身が剣の形と火を制御できる。
セトは剣術と体の動きへ集中できる。
「二人の役割が、もっとはっきり分かれる」
「ああ」
「グラウスが待っているのは、それか」
「たぶん」
※第9話「二刀と精霊剣」は全八回です。
続きます。
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