(五)禁じられた二刀
◆ 一本ずつ
セトは、グラウスとの戦いを最初から説明した。
魔剣が精霊力を吸収したこと。
グラウスが白刃と黒刃を知っていたこと。
二本の剣を同時に使ったこと。
セトは白刃と黒刃を切り替えて対抗したが、そのたびに隙を狙われた。
「白刃で剣を受ければ、魔剣に力を吸われる」
祖父が確認する。
「ああ」
「黒刃なら、魔剣の火を崩せる」
「だが、反対側から白刃が来る」
「切り替える間に斬られた」
「ああ」
祖父は立ち上がった。
「外へ出ろ」
「今から?」
「傷は動けないほどか」
「そこまでではない」
「なら来い」
祖父は壁に掛けられていた木剣を一本取り、部屋を出た。
セトはシアを見る。
「行ってこい」
「お前は寝てろ」
「見ている」
「起きられるのか」
シアは寝台の端へ手をつき、ゆっくり体を起こした。
「歩くのは無理だ」
「では、どうやって見る」
「セトが運べ」
◆ 稽古場
家の裏には、小さな稽古場がある。
地面は固く踏み締められ、周囲には木の杭や斬撃の跡が残る柱が並んでいた。
セトはシアを軒下へ座らせた。
背中を壁へ預ければ、倒れずに見ていられる。
祖父は稽古場の中央に立っていた。
「白刃を出せ」
セトが右手へ白刃を作る。
「黒刃へ替えろ」
白刃を消し、黒刃を作る。
「遅い」
「分かってる」
「もう一度」
黒刃を消す。
白刃を作る。
祖父の木剣が動いた。
白刃が形になる前に、セトの手首を打つ。
「痛っ」
「グラウスなら腕が落ちている」
「木剣と一緒にするな」
「敵が待ってくれるなら、その言い訳をしろ」
もう一度。
白刃から黒刃。
黒刃から白刃。
何度繰り返しても、消して作り直す瞬間には隙が生まれる。
◆ 禁じられた二刀
「二本を同時に出せ」
祖父が言った。
セトは動きを止めた。
「いいのか」
「使えるのだろう」
「使える」
子供の頃から、右手と左手で別々の訓練を受けている。
白刃と黒刃を同時に作ること自体はできる。
だが、二種類の精霊を同時に扱うことは、邪道とされてきた。
「祖父も止めていた」
「ああ」
「今は止めない?」
「止めて、グラウスに勝てるのか」
セトは答えなかった。
「禁忌には理由がある」
複数の精霊を同時に扱えば、制御が混ざり、術が暴走する危険がある。
過去には事故もあった。
長い年月を経て、危険性への警告が、使うべきではないという教えへ変わった。
「だが、お前は子供の頃から光と闇を別々の剣として固定してきた」
「右と左で分ければ、混ざらない」
「なら、使えないわけではない」
「使わなかっただけだ」
「ああ」
祖父が木剣を構える。
「今度の敵は、その使わなかった力を使っている」
◆ 白と黒
セトは右手を開いた。
白い光が集まり、白刃となる。
続いて左手。
周囲の光が押しのけられ、黒刃が形を作る。
二本が同時に現れた。
白刃は、精霊力を高密度に集めた剣。
黒刃は、精霊力を排除して作る空白。
正反対の術を同時に保つ。
「重いな」
「前に試した時よりは保てている」
シアが軒下から言った。
「見て分かるのか」
「白い方が少し揺れている」
「左へ意識を取られてる」
「両方同じだけ見ようとするな」
祖父が言う。
「どういう意味だ」
「二本を、同じ役目で使う必要はない」
◆ 役割を分ける
祖父が木剣で斬りかかる。
セトは右の白刃で受けた。
左の黒刃も動かそうとした瞬間、白刃の形が揺れる。
木剣に押し込まれた。
「両方で受けるな」
「一本だけでは二刀の意味がないだろ」
「二本を同時に振ることが二刀ではない」
祖父が一度下がる。
「白刃は前で戦う剣だ」
物質を斬り、精霊術を断ち、相手へ届かせる。
「黒刃は、相手の術へ触れる剣だ」
吸収し、崩し、受け流す。
「白刃で攻めろ。黒刃は必要な時だけ差し込め」
「片方を主にする?」
「ああ」
白刃でグラウスの剣技へ対応する。
魔剣の火や吸収が来た時だけ、黒刃を間へ入れる。
両方へ同じ力を込め続ければ、セトの制御が先に尽きる。
「右で戦い、左で崩す」
「まずはそれだけ覚えろ」
※第9話「二刀と精霊剣」は全八回です。
続きます。
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