(四)同じ魔剣
◆ 分かれた血筋
「グラウスも、この一族の出身なのか」
セトが尋ねた。
「同じ村で育った者ではない」
祖父は木箱の中から、別の記録を取り出した。
「かなり前の世代で、一族はいくつかに分かれている」
村へ残った者。
別の土地へ移った者。
精霊術の研究を続けた者。
剣術だけを残した者。
分かれた理由まで、すべての記録が残っているわけではない。
「そのうちの一つに、白刃と黒刃を両方伝えていた家がある」
「グラウスの家か」
「おそらくな」
グラウスという個人の名は記録にない。
だが、赤黒い魔剣を持ち、白刃と黒刃の性質を知り、同時に扱える。
無関係とは考えにくい。
「かなり前に分かれたなら、祖父も知らない?」
「ああ。血がつながっているとしても、顔を合わせたことはない」
「向こうは、こちらを知っていた」
「古い記録を持っていたのだろう」
グラウスはセトの白刃を見ただけで、一族の者だと見抜いた。
セトが知らないことまで知っているようだった。
◆ 封じたもの
祖父は、分かれた家について書かれた記録を読み進めた。
「妙な記述がある」
「何だ」
「分かれた家の一つが、封じられた剣の管理に関わったとある」
何の剣かは書かれていない。
場所も記録から消されている。
ただ、火に関係する危険な剣を守る役目を負ったとだけ残っていた。
シアが体を起こそうとする。
「無理するな」
セトが背中を支えた。
「その剣だ」
「分かるのか」
「継承知識にある」
イフリートの代々の知識には、危険な火の魔剣が存在することが残されていた。
その剣は、過去のイフリートに由来する。
人間に悪用されないよう、先代イフリートが封印していた。
「先代が?」
「ああ」
「お前は場所を知らなかったのか」
「知識には、封印されていることしか残っていなかった」
精霊王が継ぐのは、役割に必要な知識だ。
誰がどの道を通り、どの人間へ何を頼んだかという個人的な記憶までは残らない。
「先代は封印の場所を、人間の一族にも守らせていたのかもしれない」
祖父が記録を見る。
「その役目を、分かれた家が引き継いだ」
「そしてグラウスが、その家に生まれた」
◆ 同じ魔剣
「昔、精霊剣の姿で死んだイフリート」
シアが言う。
「この一族の祖先が使い手だった」
「ああ」
「死後に残った剣は封じられた」
「ああ」
「後のイフリートが危険な魔剣として管理し、先代も封印していた」
祖父がゆっくりとうなずく。
「分かれた家には、その場所か、封印を守る役目が伝わった」
「グラウスは、その家の血を引いている」
セトが続ける。
「なら、あいつが持っていた魔剣は――」
「あの時のイフリートが残した剣だ」
シアが断言した。
祖父が話した一族の伝承。
シアが持つ、イフリートの継承知識。
グラウスの血筋。
赤黒い魔剣。
別々だった情報が、一つにつながった。
「グラウスが封印を破り、持ち出した」
「おそらくな」
「それで先代を殺した」
「ああ」
◆ 二人分の火
セトは、グラウスの赤黒い剣を思い出した。
シアと似ているが、シアのものではない炎。
剣の中で混ざり合っていた、いくつもの火。
「あの魔剣には、古いイフリートの力が残っている」
「最初に剣になった代の残存力だ」
シアが答える。
「そこへ、先代から奪った火が加わった」
「二人分のイフリートの力がある?」
「正確には、古い方の力がどれだけ残っているか分からない」
長い時間の中で使われ、失われ、別の場所から補われている可能性がある。
それでも、器そのものは古いイフリートが残したものだ。
そこへ、精霊王一人分に近い力を持つ先代の火が吸収された。
「普通の魔剣より強い理由か」
「ああ」
人や魔物から少しずつ力を奪うだけでは、生きた精霊剣を超えるほどの力にはなりにくい。
だが、グラウスの魔剣は違う。
精霊王を殺し、その力を直接取り込んでいる。
「シアからも奪った」
セトの声が低くなる。
「まだ全部ではない」
シアが言う。
「だが、あの剣は前より強くなった」
◆ 壊しても戻らない
「魔剣を壊せば、奪われた力は戻るのか」
「分からない」
「先代は?」
「戻らない」
シアの答えは明確だった。
「魔剣の中に先代の人格はない。剣を壊しても、先代が生き返ることはない」
「古いイフリートも?」
「ああ」
救うために壊すのではない。
これ以上、誰かの力を奪わせないために壊す。
グラウスが魔剣を使い続ける限り、新しい被害が増える。
「なら、壊すしかない」
セトが言った。
「その前にグラウスを倒す必要がある」
「分かってる」
「今のままでは負ける」
「それも分かってる」
祖父が二人を見る。
「負けた理由を話せ」
※第9話「二刀と精霊剣」は全八回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/




