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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第9話 二刀と精霊剣

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(三)弔いの術

◆ 古いイフリート


 祖父は、家の奥から古い木箱を持ってきた。


 中には、何冊もの古びた記録が収められている。


 紙の色も、使われている文字も少しずつ違う。


「この一族には、昔、イフリートとともに戦った者がいた」


 シアの目が祖父へ向く。


「どの代だ」


「分からん。伝承として残るほど昔だ」


 祖先は、当時のイフリートと深い信頼関係を築いていた。


 何度もともに戦い、最後にはイフリートが精霊剣となって、その人間へ身を預けた。


「精霊剣という呼び名も残っている」


 祖父は古い記録を開く。


「ただし、その剣の名は残っていない」


「名前は最初から決まっているものではない」


 シアが言う。


「なら、その二人だけが呼んでいた名があったのかもしれんな」


 その戦いで何が起きたのか、詳しい記録は残っていない。


 分かっているのは、イフリートが剣の姿のまま死亡したことだけだった。


「使い手だった祖先は生き残った」


 祖父の声が少し低くなる。


「だが、手元には、意思を失った剣だけが残った」


◆ 使わなかった剣


「その祖先は、魔剣を使ったのか」


 セトが尋ねる。


「使わなかった」


 祖父はすぐに答えた。


「剣にはまだ、大きな火の力が残っていたらしい。武器として使えば、強力だっただろう」


「なぜ使わなかった」


「ともに戦った相手の亡骸を、意思がなくなったからといって道具にする気にはなれなかった」


 精霊王の魂が残っていないことは、当時の祖先も理解していた。


 使ったからといって、苦しませるわけではない。


 壊したからといって、救えるわけでもない。


 それでも、使い続けることを選ばなかった。


「弔ったのか」


「人間の墓と同じではない。だが、そのようなものだ」


 剣は危険物として封じられた。


 そして祖先は、その剣に頼る代わりに、自分の手で精霊を剣へ変える術を学び始めた。


「それが剣状精霊術?」


「ああ」


◆ 弔いの術


 祖先が剣状精霊術を生み出したわけではない。


 精霊を一定の形へ固める術は、それ以前から存在していた。


 だが、剣として戦えるほど強く固定し、実際の剣術と組み合わせる者はほとんどいなかった。


「祖先はその術を学び、一族へ伝えた」


「魔剣を使わないために?」


「それだけではない」


 精霊剣となったイフリートと戦ったことを忘れないため。


 剣となった相手が意思を失っても、その力だけを求める者にならないため。


 そして、精霊王の亡骸に頼らず、自分たちの力で剣を持つため。


「だから、この一族は剣状精霊術を教え続けている」


 子供が精霊術を学び始める頃には、光と闇を剣へ固定する訓練を始める。


 普通の精霊術より先に、剣の形を覚えさせる。


「弔いの意味まで知らずに教わる者の方が多いがな」


「俺も知らなかった」


「必要になるとは思っていなかった」


 祖父が記録を閉じる。


「伝承は、長く続けば理由よりも形だけが残る」


◆ 誰も学ばない術


「剣状精霊術は、一族以外にはないのか」


「存在は知られている」


 シアが答えた。


「だが、実際に使える者はほとんどいない」


「なぜだ」


「時間がかかりすぎる」


 火を放つだけなら、火の精霊を集め、熱へ変え、狙った方向へ動かせばいい。


 剣状精霊術は、それだけでは済まない。


 精霊を高密度に集め、刃の形へ固定し、振っても衝撃を受けても形を維持し続けなければならない。


「覚えるまでに何年もかかる」


 祖父が続ける。


「覚えた後も、剣として振れなければ意味がない」


 精霊術士は、普通なら距離を取って術を放つ。


 剣士は、金属の剣を持って接近戦を学ぶ。


 剣状精霊術を使うには、その両方を長い時間かけて習得しなければならない。


「普通の精霊術士は、同じ時間で別の術をいくつも覚えられる」


「剣士なら、最初から本物の剣を使う」


「ああ」


 わざわざ精霊術で剣を作り、そのうえで剣術まで学ぼうとする者はいない。


「だから、術としては存在するが、実態としては使い手がいないに近い」


 シアの説明に、祖父がうなずいた。


「この一族は、子供の頃から無理に両方を教えるから残っているだけだ」


◆ 一族の偏り


「その代わり、他の術が使えなくなる」


 セトが言った。


「使えないとは限らん」


 祖父が訂正する。


「使うための感覚が育ちにくい」


 何を扱っても集める。


 集めれば固める。


 固めれば刃へする。


 一族の者は、精霊を自由に流すよりも、剣の形へ閉じ込めることを先に覚える。


「お前も精霊力そのものが少ないわけではない」


「ああ」


「だが、剣以外の形へ動かすのが下手だ」


「知ってる」


「火を撃てと言われても、たぶん火の短剣を作る」


 シアが言った。


「作れるなら、その方が当てやすい」


「そういうところだ」


 祖父はため息をついた。


「弔いから始まった術だが、教え方まで正しいとは限らん」


「今さらやめるのか」


「やめる気はない」


 即答だった。



※第9話「二刀と精霊剣」は全八回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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