(二)空になった剣
◆ 話さなかった理由
「だから、今まで話さなかったのか」
セトが尋ねる。
「それもある」
「他にも?」
「精霊王が剣になれると知れば、セトは考える」
「何を」
「わたしも剣になれるのではないかと」
否定はできなかった。
精霊剣が魔剣と対等以上に戦えるのなら、グラウスを倒す手段として考えてしまう。
「自分が使い手になれるかとも考える」
「……考えるかもしれないな」
「知識が先に入れば、セトはわたしを剣として見るかもしれない」
「見ない」
「今はそう言える」
シアは目を閉じた。
「だが、先に話せば、出会った時から違ったかもしれない」
セトが最初に興味を持ったのは、イフリートの力ではない。
シアも最初に見ていたのは、セト本人ではなく白刃だった。
そこから二人は旅をし、戦い、名前を呼び合うようになった。
最初から精霊剣の存在を知っていれば、そのすべてに別の目的が混ざったかもしれない。
「今なら話してもいいと思ったのか」
「グラウスが先に気づいた」
隠し続けても、すでに相手は精霊剣の成立を待っている。
知らないままでは、次の戦いで利用される。
「それに、魔剣の正体も話す必要がある」
◆ 空になった剣
「魔剣は、死んだ精霊王なのか」
「正確には違う」
精霊王が精霊剣の姿のまま死亡すると、剣の形をした器が残ることがある。
だが、そこに精霊王の人格や意思は残らない。
「魂が閉じ込められているわけではない?」
「ああ。剣を壊しても、中から精霊王が戻ることはない」
「完全に死んでいるのか」
「ああ」
残るのは、力を蓄えられる剣の形だけ。
生きた精霊剣なら、精霊王自身が力を制御し、使い手を選ぶ。
死後に残った器には、そのどちらもない。
拒む意思を持たないため、拾った人間でも使うことができる。
「それが魔剣か」
「ああ」
「中身がないから、外から力を奪う」
「そうだ」
最初には、その剣となった精霊王の力がいくらか残っている。
だが、使えば減る。
失った力を補うため、人や魔物、精霊術、自然環境から力を吸い取って蓄える。
「グラウスの剣にも、精霊王の意思はない?」
「ない」
「先代の意思も?」
「ない」
あの剣にあるのは、先代から奪った火だけだった。
記憶も人格もない。
先代本人が、グラウスの剣として使われているわけではない。
◆ 生きた剣と死んだ剣
「生きた精霊剣は、自分で人間を選ぶ」
「ああ」
「魔剣は、持った人間を拒めない」
「ああ」
「精霊剣なら、自分で力を加減できる」
「魔剣は、使う人間が無理に引き出す」
グラウスが魔剣を分かりやすいと言った理由が、少し見えた。
剣は何も望まない。
誰を信じるかも決めない。
持ち主が求めれば、蓄えた力を出す。
「グラウスは、精霊王に選ばれなかったから魔剣を使ったのか」
「本人の話が本当なら、そうだろう」
先代イフリートは、グラウスをある程度認めていた。
だが、精霊剣として身を預けるほどには信頼しなかった。
だからグラウスは、意思を持たない剣を選んだ。
「選ばれなかったのではなく、選ぶ必要がないものを奪った」
「そういうことだ」
部屋の外で、床板が鳴った。
◆ 祖父
「ずいぶん大きな話をしているな」
祖父が戸口に立っていた。
手には、湯気の立つ器が二つある。
「聞いていたのか」
「この家は壁が薄い」
祖父は器を置き、寝台の近くへ座った。
「精霊王自身が剣になる。死ねば、意思のない剣が残る」
シアを見る。
「その話は、昔から一族に伝わるものと似ている」
「一族の伝承?」
「お前には話していなかったな」
祖父がセトへ言う。
「白刃と黒刃を教えるだけで、昔話まで聞かせる必要はないと思っていた」
「今は必要になった?」
「魔剣を持った者が、同じ術を使ったのだろう」
「ああ。白刃も黒刃も使った」
「名は?」
「グラウス」
祖父は、その名を聞いても顔色を変えなかった。
「個人としては知らん」
「なら、何が分かる」
「どの血筋かは見当がつく」
※第9話「二刀と精霊剣」は全八回です。
続きます。
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