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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第9話 二刀と精霊剣

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(一)精霊王が剣になる

◆ 故郷


 セトが故郷の村へ着いたのは、翌日の昼を過ぎた頃だった。


 山あいにある小さな村。


 石を積んだ低い塀と、斜面に沿って並ぶ家々。


 村の奥には、剣の稽古に使われる広場と、山へ続く細い道がある。


 セトはシアを背負ったまま、村の中央を通った。


 何人かの村人が振り返る。


 傷だらけのセトと、背中で動かない赤髪の少女を見れば、当然の反応だった。


「セト?」


「戻ったのか」


「その子はどうした」


「後で話す」


 足を止めずに答える。


 今は説明よりも、シアを休ませる場所が必要だった。


 村の奥にある古い家へ向かう。


 扉を開ける前に、中から足音が聞こえた。


「遅い」


 扉を開けたのは、セトの祖父だった。


 白くなった髪を短く切り、年齢の割に背筋は伸びている。


 セトの顔を見る。


 続いて、背負われているシアへ視線を移した。


「何があった」


「魔剣を持った男に負けた」


 祖父の表情が変わった。


「中へ入れ」


◆ 火のない部屋


 シアは奥の部屋に敷かれた寝台へ寝かされた。


 村の治療師が呼ばれたが、シアの体には人間のような傷が残っていなかった。


 グラウスの魔剣に斬られた場所も、皮膚だけを見ればすでに塞がっている。


 だが、体を起こす力がない。


 指先へ赤い光を集めても、火になる前に消えてしまう。


「傷が治ったように見えても、動かす力そのものが足りていない」


 治療師はそう言い、食事と休息を取らせるよう告げた。


 精霊王に人間の治療がどこまで意味を持つかは分からない。


 それでも、シアは運ばれてきた薄いスープを残さず飲んだ。


「食べられるなら、まだ大丈夫だな」


 セトが言う。


「食べなくても消えはしない」


「なら、なぜ全部飲んだ」


「腹が減っていた」


「精霊王も腹は減るのか」


「人の姿なら減る」


 声は弱いが、受け答えは普段と変わらない。


 セトは寝台の脇へ座った。


 自分の肩と脇腹にも布が巻かれている。


 動くたびに痛むが、シアほど深刻ではない。


「祖父には、どこまで話す」


「全部だ」


「魔剣についてもか」


「ああ」


 シアは自分の手を見る。


「その前に、セトへ話すことがある」


◆ 魔剣の正体


「魔剣についてか」


「ああ」


 シアは寝台へ横になったまま、天井を見ていた。


「今まで、魔剣は力を蓄える剣だと説明した」


「人や魔物、精霊術から力を奪う剣だな」


「それは性質の話だ」


 シアがセトへ顔を向ける。


「魔剣が、なぜ力を蓄えられるのかは話していない」


「知らなかったわけではないんだな」


「知識としては知っていた」


「なぜ黙っていた」


 シアはすぐには答えなかった。


「魔剣を説明するには、その前に別の剣を説明する必要がある」


「別の剣?」


「精霊剣だ」


 聞いたことのない言葉だった。


 だが、グラウスの口にした神剣という言葉よりも、セトには身近なものに感じられた。


「精霊で作った剣なら、白刃もそうだろ」


「違う」


 シアは首を横へ振る。


「白刃は、意思を持たない精霊をセトが集め、剣の形へ固定している」


「ああ」


「精霊剣は、精霊王自身が剣になる」


◆ 精霊王が剣になる


 セトはシアを見た。


 横になっている少女の姿と、剣という言葉がすぐには結びつかない。


「精霊王自身が?」


「ああ。人間が精霊王を剣へ変える術ではない」


「では、誰が変える」


「精霊王本人だ」


 精霊王が自ら形を変え、人間へ身と力を預ける。


 剣になった精霊王は、単に握られているだけではない。


 属性の力と出力の制御は、精霊王が行う。


 人間は、その剣を持って動き、相手との間合いを測り、どこへ振るかを決める。


「二人で一つの剣を使うようなものか」


「少し違う」


「どう違う」


「精霊王が剣で、人間が使い手だ。だが、どちらかだけが戦うわけではない」


 精霊王は、自分の力を自分の意思で動かす。


 人間は、その力を持った剣とともに体を動かす。


 どちらかが一方的に従うものではない。


「白炎も二人で使っていた」


「白炎は、わたしが外から白刃へ火を乗せているだけだ」


 白炎で強くなるのは、基本的には剣だけだ。


 セト自身の体が、精霊王と同じ速さや強さを得るわけではない。


「精霊剣は違う。剣だけではなく、使う人間の体にも力が流れる」


「身体能力まで上がるのか」


「ああ」


「それなら、白炎よりも強い」


「普通はな」


◆ 信頼


「誰でも使えるのか」


「使えない」


 シアは迷わず答えた。


「精霊王が、自分で使い手を選ぶ」


「選ばれなければ?」


「剣にならない」


「無理に変える方法は?」


「ない」


 シアは少し考え、言い直した。


「少なくとも、それは精霊剣ではない」


 人間が力で精霊王を従わせ、剣へ押し込めるものではない。


 精霊王自身が相手を信頼し、自分の体と力を預ける。


 そこに人間側から強制できる手順は存在しない。


「グラウスが言っていた条件とは、それか」


「たぶん」


 シアがセトへ大きな炎を渡した時。


 セトをかばって魔剣に斬られた時。


 グラウスは、条件が揃い始めていると言った。


「お前が俺を信頼していると、あいつは考えた?」


「ああ」


「実際は?」


 シアは黙った。


「なぜそこで黙る」


「信頼が何か、よく分からない」


「知識にはないのか」


「精霊剣には信頼が必要だという知識はある」


 だが、何をすれば信頼したことになるのか。


 どこからが信頼で、どこまでは違うのか。


 それは継承される知識ではなかった。


「相手をかばえば信頼なのか」


「それだけではないと思う」


「大きな力を渡せば?」


「それだけでもない」


「では、何だ」


「分からないと言っている」


「俺にも分からない」


 二人はしばらく黙った。



※第9話「二刀と精霊剣」は全八回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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