(三)研究者たちの選択
◆ 新兵器
「国は、これが何なのか知っているのか」
起動を疑っていた研究者が、観測室の奥にいる責任者へ尋ねた。
表示はまだ増えている。振動のたび、壁の隙間から砂が落ちた。
「研究計画は承認されている」
「承認した内容を聞いている」
「四翼精霊王と八翼への対抗兵器を開発すると説明した」
「イフリート本人を捕らえ、核として使うことも?」
「その詳細は伝えていない」
「古代設計図の名称が、終焉の炎であることは?」
「新兵器の研究だと説明すれば十分だろう」
問いかけた研究者の顔が強張った。
自分も肉体の製造や縛炎鎖の試験へ参加してきた。
だが、国へ何が伝わっているのかまでは、知らされていなかった。
「停止工程が見つかっていないことも、伝えていないのか!」
「研究内容を一つ残らず説明して、役人に理解できると思うか?」
「理解できるかどうかではない。止め方のない兵器だと知らずに承認したなら、話が違う!」
その瞬間、地下から大きな振動が来た。
照明が消え、赤い予備灯だけが点灯する。
「外殻が動いています!」
「施設の固定部が持ちません!」
責任者は測定器から目を離した。
「成功は確認した。ここに残る理由はない」
「待て。あれをどうする!」
「我々の目的は、古代の設計を再現できると証明することだ」
「後始末は?」
「国が対処する」
「国は何も知らないと言ったばかりだろう!」
責任者は机の下から鞄を取り出した。
設計図の写し、主要な観測記録、実験結果が入っている。
持ち出す資料は、事前に選ばれていたようだった。
「東の受け入れ先は?」
「すでに話がついている」
「最初から国外へ出るつもりだったのか!」
「成功しても失敗しても、研究を続ける場所は必要だ」
数人が鞄を持って立った。
逃亡先は、東のローディア王国だった。
責任者は振り返らず、暗い通路へ入っていく。
「我々の仕事は終わりだ」
完成品を制御できないと分かった今も、その足取りにためらいはなかった。
◆ 残された者たち
観測室に残った研究者たちは、床を伝わる振動の中で互いを見た。
責任者たちの足音は、もう聞こえない。
「追わなくていいのか?」
「追っても、今ここで動いているものは止まらない」
「同じものを別の国で作るかもしれないぞ」
「それでも、まず目の前の一体だ」
記録係が測定器を確かめる。
針は振り切れ、起動前に定めた範囲では数値を読めなかった。
外部からの原光導入用に開いた経路だけは、施設の操作盤で閉じられる。
研究者は導路を一つずつ確認し、供給側を遮断した。
「外部導入、停止!」
「本体の出力は?」
「下がりません」
「まだ、どこから原光が来る?」
別の研究者が、施設の外にある観測点の記録を示した。
山の周囲から集まる原光の量が、起動前とは比べものにならないほど増えている。
施設側の経路を閉じても、巨体自身が周囲から原光を取り込み続けていた。
「我々が入れていた分は止まったんだな?」
「はい。ですが、あれは自分で取り込み始めています」
「設計図には?」
「外部導入が不要になる可能性は、書かれていました」
「可能性を、確かめずに起動したのか……」
施設の奥から何かが引き裂かれる音がした。
全員が扉へ振り向く。
壁を支えていた金具が曲がり、床に亀裂が伸びていた。
「我々は、何を作ったんだ」
誰もすぐには答えられなかった。
古代の設計図を読み、現代の部品で機構を組み、落下した光の精霊王の破片を集めた。
縛炎鎖の製造と試験にも参加している。
起動しないと思っていたことは、製造へ加わらなかったという意味ではない。
「外へ出ます。動いた後の状態を見なければ」
「近づけば死ぬかもしれない」
「ここにいても同じです。まず、止められる部分を探します」
残った研究者たちは、持てるだけの観測記録を抱えた。
崩れかけた通路を通り、地上へ向かう。
逃げた仲間とは違い、彼らは自分たちが作ったものを見届けようとしていた。
※第59話「終焉の炎」は全七回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/
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