(二)終焉の炎、起動
◆ 限界
「流入量、予定値へ到達」
「イフリート出力、上昇」
「最大放出には未到達」
シアは歯を食いしばった。
精霊王であっても、一度に扱える原光の量には限界がある。
体内へ押し込まれる量が、制御して外へ逃がせる量を上回り始めていた。
七つの分霊核が赤く明滅する。
シアは核へ残る空きを利用しようとしたが、鎖に囲まれた経路は自由につながらない。
核に蓄えられた力までなくなったわけではない。それでも、外から来る量を全部受け止めることはできなかった。
「最終流入を開始」
「待て! それ以上は……!」
原光が一気に増えた。
身体の中に複数の流れが押し寄せ、シアが整えていた場所からあふれ始める。
皮膚の表面へ小さな火が浮いた。
そこを抑える。
次は肩から火が漏れ、続いて脚の鎖の間が赤く光った。
シアは一つずつ変換を止めようとするが、止めた分だけ別の場所に原光が集まる。
「固定状態を確認」
「異常なし」
「起動工程を継続」
シアの身体には異常しか起きていない。
だが、人間たちが確認しているのは、縛炎鎖と導路が設計どおり働いているかどうかだった。
シアが何を抑え、どれほど無理をしているかは測っていない。
四翼の膜が大きく波打った。
シアは残る力を集中させ、せめて火への変換だけは抑えようとした。
「やめろ……!」
自分の内側から、制御の届かない流れが広がっていく。
今度は一か所ではない。
四翼すべてへ原光が押し寄せ、身体だけでは抱えきれなくなった。
◆ 最大放出
シアが押しとどめていた流れが、ついに崩れた。
赤い四翼が一気に大きく開く。
全身から、押し込まれた原光が放たれた。
シアが放とうと決めたわけではない。
自分を形のまま保つためにも、それ以上は内側へ留められなかった。
火ではなかった。
熱へ変換する余裕さえないまま、原光が四翼を通って噴き出した。
赤く見える力が空洞を満たすのに、周囲の温度はほとんど上がらない。
鎖につながる導路が、その膨大な放出を一斉に受け止めた。
「最大放出を確認!」
「検出条件、成立!」
「全身の接続を開始!」
それまで別々に存在していた導路から、赤い線が伸びていく。
シアを中心に、空洞の壁へ、さらにその外側へ。
奥で何かがつながるたび、振動が返ってきた。
シアにはどの部分が動いたのか分からない。
ただ、奪われていた自分の火とは違う巨大な流れが、身体の周りで組み上がっていくのを感じた。
「止まれ!」
シアは四翼を閉じようとした。
しかし、外から入り続ける原光と四翼からの放出は、すでに途切れない流れになっていた。
閉じようとするほど、身体へ負荷が返る。
赤い線は止まらず、見えない奥まで広がっていく。
「各部への接続、成立!」
「起動条件を達成!」
巨大な器の全体が、低く震え始めた。
これまで動かなかった赤黒い壁の奥から、重い音が返ってくる。
「終焉の炎、起動」
その言葉が響いた直後、シアの周囲の導路が新しい流れを作った。
閉じ込められた本人の意思とは関係なく、巨大なものが動き出していた。
◆ 起動成功
地下施設の観測室にも、振動が伝わった。
卓上の器具が揺れ、天井から細かな砂が落ちる。
測定器の針は次々に上限へ達し、記録係が表示を追いかけていた。
「動いた……」
「本当に動いた」
「成功だ!」
一人の研究者が立ち上がった。
「設計図は正しかった。終焉の炎は、現代でも再現できた!」
彼らが調べ続けたのは、発掘された古代の設計図だった。
現代の加工方法で組み上げた構造。起動に必要だと指定されたイフリート。光の精霊王戦で地上に落ち、回収された破片を利用した肉体。
それらを組み合わせ、記された手順を実行した結果、巨体が実際に動いている。
少なくとも起動試験としては、成功だった。
「四翼を確認!」
「全身への原光供給も成立しています!」
「設計図の記載と一致する。我々の解読は間違っていなかった!」
喜びの声が重なる。
その横で、一人の研究者だけが動かず、測定器を見つめていた。
「……起動するはずがない」
「何を言っている。目の前で動いているだろう」
「設計図を読めても、同じものを作れるとは限らなかった。材料も加工も違う。これは起動しない可能性が高い試作だったはずだ」
「だから試したのだろう?」
「試したことと、安全に動かせることは別だ!」
施設が再び揺れ、壁へ亀裂が走った。
観測を続けていた研究者が叫ぶ。
「出力が上がり続けています!」
「設計値の範囲か?」
「起動後の上限値は記されていません!」
「では停止させろ!」
室内が静かになった。
起動したという記録は残せる。
しかし、止められるという記録はどこにもない。
「停止方法は?」
「……起動後の停止工程は、設計図から発見できていない」
「それを知っていて起動したのか!」
歓声が消えた観測室へ、怒鳴り声だけが響いた。
※第59話「終焉の炎」は全七回です。
続きます。
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