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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第59話 終焉の炎

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(二)終焉の炎、起動

◆ 限界


「流入量、予定値へ到達」

「イフリート出力、上昇」

「最大放出には未到達」


 シアは歯を食いしばった。

 精霊王であっても、一度に扱える原光の量には限界がある。

 体内へ押し込まれる量が、制御して外へ逃がせる量を上回り始めていた。

 七つの分霊核が赤く明滅する。

 シアは核へ残る空きを利用しようとしたが、鎖に囲まれた経路は自由につながらない。

 核に蓄えられた力までなくなったわけではない。それでも、外から来る量を全部受け止めることはできなかった。


「最終流入を開始」

「待て! それ以上は……!」


 原光が一気に増えた。

 身体の中に複数の流れが押し寄せ、シアが整えていた場所からあふれ始める。

 皮膚の表面へ小さな火が浮いた。

 そこを抑える。

 次は肩から火が漏れ、続いて脚の鎖の間が赤く光った。

 シアは一つずつ変換を止めようとするが、止めた分だけ別の場所に原光が集まる。


「固定状態を確認」

「異常なし」

「起動工程を継続」


 シアの身体には異常しか起きていない。

 だが、人間たちが確認しているのは、縛炎鎖と導路が設計どおり働いているかどうかだった。

 シアが何を抑え、どれほど無理をしているかは測っていない。

 四翼の膜が大きく波打った。

 シアは残る力を集中させ、せめて火への変換だけは抑えようとした。


「やめろ……!」


 自分の内側から、制御の届かない流れが広がっていく。

 今度は一か所ではない。

 四翼すべてへ原光が押し寄せ、身体だけでは抱えきれなくなった。


◆ 最大放出


 シアが押しとどめていた流れが、ついに崩れた。

 赤い四翼が一気に大きく開く。

 全身から、押し込まれた原光が放たれた。

 シアが放とうと決めたわけではない。

 自分を形のまま保つためにも、それ以上は内側へ留められなかった。


 火ではなかった。

 熱へ変換する余裕さえないまま、原光が四翼を通って噴き出した。

 赤く見える力が空洞を満たすのに、周囲の温度はほとんど上がらない。

 鎖につながる導路が、その膨大な放出を一斉に受け止めた。


「最大放出を確認!」

「検出条件、成立!」

「全身の接続を開始!」


 それまで別々に存在していた導路から、赤い線が伸びていく。

 シアを中心に、空洞の壁へ、さらにその外側へ。

 奥で何かがつながるたび、振動が返ってきた。

 シアにはどの部分が動いたのか分からない。

 ただ、奪われていた自分の火とは違う巨大な流れが、身体の周りで組み上がっていくのを感じた。


「止まれ!」


 シアは四翼を閉じようとした。

 しかし、外から入り続ける原光と四翼からの放出は、すでに途切れない流れになっていた。

 閉じようとするほど、身体へ負荷が返る。

 赤い線は止まらず、見えない奥まで広がっていく。


「各部への接続、成立!」

「起動条件を達成!」


 巨大な器の全体が、低く震え始めた。

 これまで動かなかった赤黒い壁の奥から、重い音が返ってくる。


「終焉の炎、起動」


 その言葉が響いた直後、シアの周囲の導路が新しい流れを作った。

 閉じ込められた本人の意思とは関係なく、巨大なものが動き出していた。


◆ 起動成功


 地下施設の観測室にも、振動が伝わった。

 卓上の器具が揺れ、天井から細かな砂が落ちる。

 測定器の針は次々に上限へ達し、記録係が表示を追いかけていた。


「動いた……」

「本当に動いた」

「成功だ!」


 一人の研究者が立ち上がった。


「設計図は正しかった。終焉の炎は、現代でも再現できた!」


 彼らが調べ続けたのは、発掘された古代の設計図だった。

 現代の加工方法で組み上げた構造。起動に必要だと指定されたイフリート。光の精霊王戦で地上に落ち、回収された破片を利用した肉体。

 それらを組み合わせ、記された手順を実行した結果、巨体が実際に動いている。

 少なくとも起動試験としては、成功だった。


「四翼を確認!」

「全身への原光供給も成立しています!」

「設計図の記載と一致する。我々の解読は間違っていなかった!」


 喜びの声が重なる。

 その横で、一人の研究者だけが動かず、測定器を見つめていた。


「……起動するはずがない」

「何を言っている。目の前で動いているだろう」

「設計図を読めても、同じものを作れるとは限らなかった。材料も加工も違う。これは起動しない可能性が高い試作だったはずだ」

「だから試したのだろう?」

「試したことと、安全に動かせることは別だ!」


 施設が再び揺れ、壁へ亀裂が走った。

 観測を続けていた研究者が叫ぶ。


「出力が上がり続けています!」

「設計値の範囲か?」

「起動後の上限値は記されていません!」

「では停止させろ!」


 室内が静かになった。

 起動したという記録は残せる。

 しかし、止められるという記録はどこにもない。


「停止方法は?」

「……起動後の停止工程は、設計図から発見できていない」

「それを知っていて起動したのか!」


 歓声が消えた観測室へ、怒鳴り声だけが響いた。



※第59話「終焉の炎」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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