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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第58話 捕らわれたシア

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(七)巨大な器

◆ 運ばれる


 どれほどの時間、どこへ運ばれたのか、シアには分からなかった。

 黒い枠の中では、外の景色も、進む方向も見えない。

 ときどき揺れが伝わるが、地上を運ばれているのか、地下を通っているのかさえ判断できなかった。

 鎖からは絶えず火が抜かれていく。


 シアは意識を保ちながら、一本ずつ鎖の位置を確かめた。

 腕、脚、腰、胸。

 どこかに手を伸ばす余裕があれば、その一本を壊せるかもしれない。

 しかし、今は関節を動かすことさえ難しかった。

 火を集中させると、鎖がその力を奪い、固定具の奥へ運んでしまう。


「こんなもの、ずっと続けられると思うなよ……」


 返事はなかった。

 七つの分霊核はまだ近くにある。

 蓄えている力が一度に消えたわけでもない。

 だが、枠の内側には核を自由に動かせる広さがなく、砲撃の向きをそろえることもできなかった。

 シアは小さな火を作り、鎖の接続部分へ向けてみる。

 火は届いたものの、外側から別の流れに引かれ、奥へ逃げていった。


 覆いの向こうで、人間の声がした。


「出力は安定」

「拘束を維持」

「予定地点まで継続」


 誰もシアへ話しかけない。

 相手がまだ生きて意識を持っていることは、確認する必要すらないようだった。

 シアも、やがて声を出さなくなった。

 返事のない相手に叫ぶより、鎖を緩める機会を探す方を選んだ。


 セトとのつながりへ、もう一度意識を向けた。

 消えてはいない。

 だが、その方向へ火を流そうとすると、やはり途中で奪われる。

 届いたかどうかも分からないまま、集中が途切れた。


 意識が沈みかける。

 シアは歯を食いしばって顔を上げた。

 このまま眠ってしまえば、自分で鎖を壊すこともできなくなる。

 そう分かっていても、身体の内側から火が抜け続けていた。


 やがて、黒い枠の動きが止まった。

 覆いが開いた。


◆ 巨大な器


 外は暗かった。

 広い空間の中央に、巨大なものが横たわっている。

 生き物のようにも見えるが、呼吸はしていない。

 赤黒い表面には裂けた部分があり、その奥には硬い骨組みのような構造が通っていた。

 肉に似たものと人工的な導路が、無理やりつなぎ合わされているようだった。


 シアは目を凝らした。

 黒い枠の位置からでは、全体の大きささえ分からない。

 奥へ続く壁が、この巨大なものの一部なのか、それを収める建物なのかも見分けにくかった。

 人間たちは、慣れた手順で枠を動かしている。

 誰も、シアへ何をするつもりか説明しなかった。


「何だ、これは……」


 黒い枠が巨大なものの内部へ運ばれた。

 あらかじめ開けられていた空洞へ、枠ごと押し込まれる。

 七つの赤い分霊核もシアの周囲に残ったまま、同じ場所へ入っていった。

 壁の近くには、何本もの導路が口を開けている。


「火の導路、接続を開始」


 シアへ巻きついた縛炎鎖が、空洞の奥にある導路へ一本ずつつながれた。

 火の流れる方向が変わる。

 それまでは鎖を通って遠くへ逃げていた火が、今度は周囲の巨大な構造へ広がっていく。

 まだ何かが動き出した様子はない。

 ただ、シア自身の力だけが、本人の意思とは無関係に外へ運ばれていた。


「火の導路、接続を確認」


 シアは鎖を引いた。

 手足は動かない。

 残った火を集めても、その流れは自分のもとへ戻らなかった。

 精霊剣となってセトへ身と力を預けたときとは違う。

 あのときは、自分で選んだ。

 今は、誰にも選択を聞かれていない。


「イフリートの組み込み、完了」


 人間の声がした。

 シアが顔を上げる。


「わたしは――」


 声がかすれた。

 それでも、最後の力を込めて言い直した。


「シアだ」


 返事はなかった。

 人間たちは次の作業へ移っている。


「起動準備へ移行する」


 巨大な器の内側が、ゆっくり閉じていった。

 最後まで、誰もシアとは呼ばなかった。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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