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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第58話 捕らわれたシア

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(六)縛炎鎖

◆ 四翼


「だったら、全部まとめて吹き飛ばす!」


 赤い四翼が開いた。

 谷の中央が赤く照らされ、シアを囲む鎖が一斉に強く張る。

 四翼へ集まった火が、身体へ巻きついた鎖に引かれていった。

 鎖を通った力は、地面の奥へ運ばれる。


「ふざけるな!」


 シアは四翼の向きを変え、露出した鎖の一本へ火を集中させた。

 火が鎖の表面を焼き、連結した部分を赤く裂く。

 シアが身体をひねると、一本が焼け落ちた。

 空いた隙間へ右腕を抜こうとする。

 だが、反対側から伸びた鎖が、その腕を先に捉えた。


 シアは七つの分霊核を周囲へ並べた。

 核の内部には、もともと蓄えていた火がある。

 身体からの供給が奪われても、その力まで瞬時に消えるわけではない。

 一つの赤い核が短い火を放ち、岩陰の固定点を吹き飛ばした。

 続いて別の核から火を放ち、谷の端で鎖を支えていた岩を崩す。


「これならどうだ!」


 固定点が二か所、続けて壊れた。

 しかし、身体を引く鎖の力は緩まない。

 谷の反対側で別の導路が動き、予備の固定点へ拘束が引き継がれる。

 七つの分霊核を動かしている間にも、シア本体へ巻きついた鎖は火を奪い続けた。


「固定点、二か所損傷」

「予備へ切り替え」


 谷の上から、人間の声が聞こえた。

 シアはそちらを見上げたが、岩の影に人影は見えない。

 見えない相手は攻撃を撃ち込んでこない。

 ただ、鎖を補充する指示だけが続いていた。


 シアは残る核へ力を集め、八門の砲撃を構えようとした。

 だが、核へ送る火の流れが鎖に引かれ、八つの射点を同時に満たせない。

 蓄積分だけで個別に撃つことはできても、構えを整える間に新しい鎖が届く。

 胸にも一本が巻きつき、四翼の流れをさらに奪った。


 力比べで負けたわけではない。

 鎖は壊せる。

 それでも、壊した分だけ補充され、使った火を奪われ続けている。

 相手は、シアが強いことを前提にしていた。


◆ 縛炎鎖


「縛炎鎖、接続を確認」

「対象の出力上昇に合わせ、拘束を追加」


 谷の上から、別々の男の声がした。

 シアの両腕、両脚、腰へ、さらに鎖が巻きついていく。

 一本の拘束を緩めれば、別の一本が張る。

 火を流せば、その力の一部が地中の導路へ抜かれ、拘束を強めるために使われた。


 シアは右腕の鎖へ火を集め、つなぎ目を焼き切った。

 すぐに左腕へ力を移し、もう一本を引きちぎる。

 だが、自由になった右腕には新しい鎖が巻きつき、左肩にも別の鎖が届いた。

 谷の斜面が崩れ、岩がいくつも落ちる。

 それでも、鎖の数は減らなかった。


「出てこい!」


 シアが谷の上へ叫ぶ。

 返事の代わりに、金属の擦れる音がした。

 相手は姿を見せず、シアを倒すための攻撃も仕掛けてこない。

 ただ、拘束の状態を見て鎖を増やしていた。


 シアはセトとネアとのつながりへ意識を向けた。

 切れた感覚はない。

 セトへ向かう細い火の流れを感じることもできる。

 しかし、その流れへ力を送ろうとすると、途中で縛炎鎖が火を奪っていく。

 声を届けられたかどうか、シアには確かめられなかった。


「対象の出力、低下」

「固定を続けろ」


 人間たちは、シアを一度も名前で呼ばなかった。

 聞こえるのは出力と固定点の話だけだった。

 何本壊されたかは数えているのに、その鎖を壊した相手が何を考えているかには触れない。


「おい! わたしの話を聞け!」


 シアは胸へ巻きついた鎖をつかみ、強く引いた。

 金属が軋み、地面の下でまた何かが壊れる。

 それでも別の鎖が背中から伸び、身体を固定した。


「わたしはシアだ!」


 声は谷へ響いた。

 しかし、返事はない。

 研究者たちが確認しているのは、イフリートの火と拘束の状態だけだった。

 彼女の名前は、最初から必要な情報に含まれていなかった。


◆ 収容


 谷の端で、地面が持ち上がった。

 土と岩の下から、黒い枠がせり上がる。

 シアを立ったまま収めても余るほどの大きさがあり、内側には何本もの鎖を受けるための固定具が並んでいた。

 谷へ張られていた導路の一部が、枠へつながり始める。


「搬送へ移行する」


 谷の上から声がした。

 鎖が同時に巻き取られ、シアの身体が黒い枠へ引かれた。

 足を地面へ食い込ませる。

 岩が砕け、足元に深い溝ができた。

 それでも、背中と腰を引く鎖は止まらない。


「離せ!」


 シアは腕を振り、横から伸びる一本を焼き切った。

 身体をひねれば、まだ動ける隙間がある。

 だが、その隙間へ黒い枠から伸びた別の鎖が入り込み、空いた腕をつかんだ。

 谷に設置されたものとは別の拘束が、次々に加わっていく。


 シアは赤い四翼を広げ直した。

 火を放って枠から離れようとする。

 しかし、翼に集めた火は胸の鎖へ引かれ、黒い枠の奥へ流れた。

 四翼そのものが消えたわけではない。

 力を出すたびに、逃げるための流れを横取りされていた。


 七つの分霊核がシアの周囲を移動する。

 最後の一つが小さな火を放ち、腕を押さえる鎖の根元を焼いた。

 だが、枠の内側では別の固定具がすぐに閉じた。

 核を遠くへ逃がすことも、そこで落ち着いて撃ち続けることもできない。

 シア自身が枠へ引き込まれていくからだった。


「イフリート、収容位置へ」


 両腕と両脚が、別々の方向へ固定された。

 次に腰と胸の鎖が締まり、身体を動かせる範囲が急に狭くなる。

 シアはなおも力を込めたが、先ほどまでより火が集まらない。

 谷での抵抗に使った分まで奪われ続けていた。


「イフリート、収容完了」


 黒い枠の覆いが閉じた。

 外の光が消えた。

 シアの最後の叫びだけが、狭い空間へ返ってきた。



※第57話「捕らわれたシア」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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