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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第58話 捕らわれたシア

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(四)平和の証拠

◆ 報告書


 聞き取りは、日が傾くまで続いた。

 ハルヴェンは書き終えた草案を、最初から読み直す。

 窓から差す光が細くなり、机の上には書き損じの紙も積まれていた。


 光の精霊王は倒された。

 核となる人型との接続は断たれ、残された巨大な身体も落下軌道から外された。

 地上への直接的な衝突は回避された。

 今代のイフリートとセレーネは、現在、個人としての意思を保ったまま四翼を制御している。

 今回の戦闘は、いずれの国家から命じられた軍事行動でもない。


「これで、終わったと書けますね」

「少なくとも、あの光の精霊王についてはな」

「それでも、すべて確認できたとは言えません」


 ネアが草案の末尾を指した。

 巨大な残骸は星の外で崩れたが、それより前の戦闘で地上へ落ちた破片まで、すべて調べ終えたわけではない。

 見つけたものが何なのか、通常の人間には判断できない可能性もある。


「小さな残骸が残っている可能性は否定できず、発見した場合は独自に利用せず、関係者へ連絡することを推奨する、と書きます」

「何かに使えるものなのか?」

「分かりません。だからこそ、勝手に使わない方がいいのです」


 ハルヴェンは注意書きを加えた。

 各地にある異常の痕跡を、今すぐ三人だけで調べ尽くすことはできない。

 国や町の力を借りる必要がある。


「これを五国向けの共通草案にします」

「安心すると思うか?」

「しないでしょうね」


 ハルヴェンは紙をそろえた。


「ですが、何も分からないまま赤と黒の光が空を飛び、最後に八本の赤い線が見えた状態よりはましです」

「実際の内容も、十分悪く見えると思いますが」

「そこは変えられません」


 草案をもとに、正式な報告書が作られた。

 その中に三人の個人名は一つも記載されなかった。

 誰について書かれたものなのかは、読めばすぐに分かる。

 それでも、個人情報への配慮だけはされていた。


◆ 平和の証拠


 報告書が五国へ送られた後も、世界は終わらなかった。

 空に赤と黒の光を見た者たちの間では、さまざまな話が生まれていた。

 世界の終わりを防ぐ戦いだったという話もあれば、精霊王同士が世界を取り合ったという話もある。

 空の外にはさらに大きな世界があり、最後の八本の赤い線は次の終わりの印だった、と書いた紙まで売られていた。


「もう終わった後なのに、終末論を話してる」


 シアが町で手に入れた紙を卓上へ置いた。

 文字を指で追い、最後の一行を見て首を傾げる。


「終わりの前触れだって書いてある。でも、終わったんだぞ」

「本当に終末が来ていれば、それを論じる余裕もありません」


 ネアが答える。


「終末論が流行していること自体、平和になった証拠なのでしょう」

「変な証拠だな」

「平和とは、そういうものかもしれません」


 セトは紙を手に取り、半分ほど読んで机へ戻した。

 実際に戦った三人が読めば、間違っている部分はいくつもある。

 それでも、町の人間がこの話題で言い争ったり、紙を買ったりできることが、少し前とは違っていた。


 戦いが終わっても、後始末まで終わったわけではない。

 光の精霊王に関する追加確認、落下した破片らしきものの調査、各地で観測された光の記録。

 魔獣の目撃情報も、以前と変わらず届いていた。


「また三人で行くのか?」

「確認だけなら、一人で済むことも多いでしょう」

「そうだな。俺まで毎回ついて行く必要はないか」

「だったら、わたしも一人で行けるな!」


 シアは当然のように言った。

 以前なら三人がそろわなければならなかった相手も、今は現れていない。

 シアとネアが個々の意思で行動し、セトが別の用事を片づける日も増えた。


 三人が全員そろわない時間も増えていた。

 それを心配する者はいなかった。

 別々に動いても、帰ればまた顔を合わせる。

 それもまた、平和になった証拠だった。



※第57話「捕らわれたシア」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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