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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第58話 捕らわれたシア

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(一)五国への報告

◆ 五国向けの草案


 光の精霊王との戦いが終わってから、しばらく経った。

 卓上には、ハルヴェンが持ち込んだ紙の束が積まれている。

 窓の外には穏やかな景色が広がり、赤い光も黒い翼も空を飛んでいない。

 それでも、星の外で何が起きたのかという問い合わせは、各国から届き続けていた。


「まずは五国へ送る、共通の報告書草案を作ります」


 ハルヴェンが紙の端をそろえ、筆を取った。

 彼は西のヴァレスト王国の騎士だが、五国すべてを代表して命令を出しに来たわけではない。

 当事者が知る事実を、一つの文書へまとめるために訪れていた。


「国ごとに違う内容を伝えると、後で食い違いが出ます。俺が三人から話を聞き、草案へまとめます」

「俺たちが書くんじゃないのか?」

「セトたちが自由に書いたものを、後から報告書へ直すより早いでしょう」

「自由には書かない」

「シアは、ほとんど書かないでしょうね」


 シアがハルヴェンを見る。


「聞かれたことには答える」

「だから聞きに来ました」


 ハルヴェンは最初の紙へ題名を書いた。

 光の精霊王の異常活動、周辺地域への影響、大気圏外での戦闘、最後に地上から見えた八つの赤い光。

 だが、これだけ並べても何が起きたのかは伝わらない。


「最初から順番に聞きます。各国が一番知りたいのは、今も危険が続いているのかどうかです」

「もう倒したぞ」

「その結論を、初めて読む人にも分かるようにするんです」


 ネアが机上の紙へ目を落とす。


「確認できた事実と、私たちの推測は分けた方がよいでしょう」

「そうします。分からないことを、分かったようには書きません」


 セトは窓の外を見た。

 あの八本の赤い筋だけを見た人々には、その前の一か月も、星を一周した十分間も見えていない。

 説明する必要があることは、三人が思っていたより多かった。


◆ 個人情報


「その前に、名前の扱いを決めましょう」


 ハルヴェンが筆を止めた。


「各国へ送る以上、個人情報には配慮します。報告書には個人名を出さず、役割名だけを記載します」

「わたしたちにも、個人情報に関する法が適用されるのか?」


 シアの問いに、ハルヴェンは少し考えた。


「分かりません」

「分からないのですか?」

「人間を対象に作られた法ですからね。国へ属していない精霊王が対象になるかは、確認しないと分かりません」

「適用されないなら、名前を書いてよいということですか?」

「そういうことにはしません。法が適用されるかとは別に、名前は伏せます」


 ネアがうなずく。

 公的な文書へ名前が残れば、それを誰が何のために利用するか分からない。

 伏せられる情報は伏せるという判断には、一定の意味があった。


「各国へ広く伝わるのであれば、その方がよいでしょう」

「では、今代のイフリート、今代のセレーネ、同行した剣状精霊術士一名と記載します」

「今代のイフリートは、わたししかいない」

「今代のセレーネも、私だけですね」


 ハルヴェンの筆が止まった。

 セトが二人を見る。


「それで個人情報を隠したことになるのか?」

「個人名は伏せています」

「誰のことかは分かるぞ」

「配慮した形にはなっています」


 さらに、二本の精霊剣を同時に持つ人間が何人いるかという話になる。

 ハルヴェンはその人数を口にせず、書きかけの文へ視線を戻した。


「せめて名前を直接書くことは避けましょう。どうしても誰かを指す必要がある時には、立場で区別します」

「結局、読めば分かるんだな」

「ええ。ですが、書くことと書かないことを選ぶ余地はあります」


 シアは納得していない顔をした。

 セトも完全には納得できない。

 それでも、正式な報告書にシアとネアの個人名は載せないことになった。

 自分たちが誰なのか分かっている者同士だからこそ、少し妙な取り決めだった。



※第57話「捕らわれたシア」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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