(五)世界一周の一撃
◆ 世界一周の一撃
衝突した。
白い巨体の表面が、大きくへこんだ。
一周かけて得た速度が、接触した部分から内部へ伝わっていく。
へこんだ表面の奥で、原光の流れが幾重にも押しつぶされた。
閉じ込められていた白い力が、左右へ、上へ、別々の方向へ噴き出す。
巨体が揺れた。
その揺れは周囲の塊まで伝わり、大きな亀裂がいくつも走る。
だが、まだ消滅にはほど遠い。
崩れた部分の向こうに、同じだけ巨大な白い身体が残っていた。
そして、衝突した反動が八翼へ返ってきた。
『流します!』
ネアの七つの黒い分霊核が、接触面の周囲を走った。
正面から戻るはずだった衝撃が、黒い線を伝って左右へ分かれる。
別の線は上へ、さらに別の線は星から離れる方向へ向けられた。
黒い四翼が残った流れを受け止め、八翼の周囲へ広く散らしていく。
それでも、すべてを逃がすことはできなかった。
セトの両腕が激しく揺れ、胸から背へ強い負荷が走る。
水の精霊回路は、入ってきた力を一か所へ留めず、流れに合わせて形を変えた。
右腕と左腕の道は混ざらない。
それでも人間の身体まで衝撃を無くせるわけではなかった。
「くっ……!」
『まだ支えられます! 今は離れないでください!』
ネアの声に、セトは歯を食いしばった。
八翼が残骸から弾き返されれば、ここまでの加速は無駄になる。
彼は二本の剣の位置を保ち、体内へ通す力を必要な分だけに絞った。
シアの赤い四翼は、接触する向きを失っていない。
白い巨体がさらにへこんだ。
その外側で、崩壊の連鎖が始まっている。
大きな塊が裂け、別の塊が押し出された。
しかし、残骸全体はまだ星へ向かう線を進んでいた。
『衝突の勢いは、さばき切りました!』
『全力で押す!』
シアの四翼が、残骸へ向けて赤く輝いた。
世界一周の一撃は、そこで終わらない。
進路を変えるための最後のひと押しが、始まった。
◆ 全力で押す
シアの赤い四翼が、白い巨体へ火を押し込んだ。
先ほどまで加速に使っていた力を、今度は接触した残骸へ直接向ける。
四枚の翼から放たれた赤い流れが、へこんだ表面へ広がった。
砲撃のように貫いて壊すのではない。
残骸を星へ落ちる線から外すため、力を加え続ける。
表面が剥がれそうになれば、押す場所を少しずつ変える。
無理に一点へ集めれば、そこだけ崩れてしまうからだった。
『押してる!』
「もう少し星から離す!」
『進路を合わせます。シア、そのままの力で』
『分かった!』
ネアが黒い四翼の向きを調整する。
シアの火が、修正された方向へ白い巨体を押す。
セトは残骸の進行方向と、眼下の星の輪郭を見比べた。
落下する向きはまだ残っている。
それでも、最初より少し横へずれ始めていた。
残骸の内部から、別の白い塊が突き出してきた。
意思ある反撃ではない。
押された原光が行き場を変え、崩れていた部分を外へ膨らませただけだった。
ネアの黒い線がその流れをそらす。
セトは極炎の位置を保ち、シアの四翼へ力が戻る道を安定させた。
『どれくらい動いた?』
「まだ足りない。地上へ向かう線が残ってる」
『だったら、もっと押す!』
『無理に強めないでください。四翼の向きを優先します』
『今のままで押し続ける!』
赤い四翼の光が強くなる。
巨体の一部が耐えきれずに剥がれ、後方へ散った。
残った部分は少し軽くなり、進む線がさらに変わっていく。
セトは地上へ近づく流れが横へ傾いたことを確かめた。
『落下する線から外れかけています』
「そのまま!」
シアは答えず、四翼から火を放ち続けた。
ネアも曲げる力を緩めない。
今度は敵を倒すためではない。
星へ届かせないために、三人で力を合わせていた。
白い巨体が、ゆっくりと星の縁へ沿う方向へ変わった。
もう少し。
そこで止めれば再び落ちるかもしれない。
セトは最後の確認が終わるまで、離脱の合図を出さなかった。
※第57話「世界一周の一撃」は全六回です。
続きます。
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