(二)星の縁
◆ 加速
「シア、速度を上げる。ネアは進路を頼む」
『分かった!』
『星から離れすぎないよう、曲げ続けます』
八翼が白い巨体へ背を向けた。
シアの赤い四翼が後方へそろい、火を放つ。
四枚の翼から伸びた赤い光が、長い尾となって宇宙へ広がった。
セトの身体が前へ押し出され、巨体との距離が一気に開いていく。
ネアは黒い四翼を星の方へ傾けた。
原光の流れを曲げ、八翼の進路を緩やかな弧へ変える。
加速する力と曲がる力は、別々の働きだった。
シアが出力を上げれば、ネアはそれに合わせて曲げる量を増やさなければならない。
『もっと出していいか?』
『今は、このままで。曲がり方を確かめています』
『せっかく勢いをつけるのに』
「十分に戻れなくなったら意味がない。ネアに合わせてくれ」
『分かったよ』
セトは二本の剣を通る流れを確かめた。
右側から来る火の力、左側から来る月の力。
新しい精霊回路は、それぞれを別の道へ通している。
ただし、翼そのものを動かす力のすべてをセトの身体へ流す必要はない。
シアとネアがそれぞれの循環を保ち、セトは必要な分だけを受け取った。
背後の白い巨体が、急速に小さくなる。
表面で起きている崩壊も、もう見分けられない。
やがて星の縁と重なり、見つけられないほど小さくなった。
『進路は安定しています。少しずつ上げてください』
『待ってました!』
赤い四翼がさらに強く輝く。
後方へ流れる火が長く伸び、星の輪郭がゆっくり横へ動き始めた。
七個の赤い分霊核はシアの循環を維持し、ネアの七核もそれぞれの位置を保つ。
八門砲撃の構えとは違う。
今は、四枚ずつの翼が飛行を担当していた。
セトは進む先を見た。
これまでの戦いでは、速く飛ぶほど敵との距離を縮めていた。
今は逆だ。
助けたい地上を守るために、いったんその場所から離れていく。
◆ 星の縁
星の表面が、眼下を流れていく。
山も海も、間もなく形を判別できなくなった。
雲の白さが細く伸び、星の輪郭だけが大きな曲線として残る。
八翼はその縁に沿って進み続けた。
速くなればなるほど、曲がり続けることが難しくなる。
赤い四翼は後方へ力を放ち、黒い四翼がその進路を絶えず曲げる。
ネアが少し制御を緩めると、八翼は星から離れようとした。
『少し外へ』
「分かった」
セトは身構え、ネアが黒い翼の向きを変えるのに合わせた。
進路がわずかに星から離れ、外側へ広がる。
続いてネアが翼を戻すと、今度は星の近い側へ曲がった。
ほんの小さな動きなのに、身体へかかる力が大きく変わった。
『今度は星へ近づけます』
『どっちなんだ?』
『少しずつ調整しています。止めたら真っすぐ進んでしまいますから』
『じゃあ、もっと出すぞ』
『曲げられる範囲でお願いします』
『限界を教えてくれ』
『今の一割増しまでです』
『分かりやすい』
シアの赤い四翼が、指定された分だけ出力を上げた。
ネアは黒い四翼を開き、その速度に合わせて進路を修正する。
セトの身体へ、外側へ引かれるような力がかかった。
八翼に包まれていても、中心にいるセトまで負荷がなくなるわけではない。
セトは極炎と絶光を握り、身体を二本の剣の間へ固定した。
左腕には月の流れ、右腕には火の流れ。
体内の水の精霊回路が流れを分けていても、身体そのものは速さに慣れていない。
胸の奥が押されるような感覚が続いた。
「今の曲がり方なら、まだ上げられるか?」
『少しなら。ただし、最後に位置を合わせる余裕も残しておきたいです』
「分かった。そこも含めて頼む」
『はい』
ネアは黒い四翼の角度を確かめた。
シアは返事を待たずに加速しない。
以前なら互いの力を押し通そうとしていた二人が、今は一つの曲線を崩さないために出力を合わせていた。
※第57話「世界一周の一撃」は全六回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/




