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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第56話 双天・星華

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(五)見えない三体目

◆ 十六の線


 八本の赤い光線が白い壁を貫いた。

 火は表面を突き破るだけではなく、巨体の内側へ流れ込み、広い範囲を焼き崩す。

 同時に、八本の黒い線が別の経路へ突き刺さった。

 巨体が損傷箇所へ原光を送り始める。

 だが、再生へ向かう流れを黒い線が奪い、分解し、縛りつけた。

 赤が組織を壊し、黒がその再生を阻む。

 それぞれ別の箇所へ作用し、一つの破壊を成立させていた。


 光の精霊王は流路を切り替えた。

 傷の周囲を回り込んで原光を運ぼうとするが、黒い線がその流れを妨げる。

 四翼へ力を集めて束縛を破ろうとすれば、赤い光線が翼の根元を貫いた。

 放たれた白光は別の赤い火とぶつかり、途中で崩れる。

 巨体の前面が裂け、額へ続く白い層が何枚も失われる。

 声ではない叫びが、原光の流れを通して三人へ響いた。


 その瞬間、十六門の反動がセトへ返ってきた。

 右腕からは火、左腕からは月の力。

 水の精霊回路が形を変え、二つを混ぜずに受け止める。

 それでも胸の奥へ強い負荷が残り、一瞬だけ飛行が揺らいだ。

 シアが推進を保ち、ネアが進路を安定させる。


『まだ動けるか?』

「動ける」

『頭部の再生が始まります』

「今しかない」


 セトは額に相当する場所へ視線を向けた。

 崩れた頭部の奥で、白い原光が新しい層を作り始めている。

 もう一度十六門を撃つ余裕はない。

 さきほどの負荷は回路の奥に残り、次の力を受け入れられる量を狭めている。

 威力で押し切る戦い方に戻れば、今度はセト自身が先に限界へ達する。

 しかし、いま開いた道なら、閉じる前に入れるかもしれなかった。


「いまだ! 突撃する!」


◆ 三つに分かれる


 セトが巨体の額へ向かって飛び込んだ。

 十六門の後で、八翼の力は安定していない。

 それでもシアの火が速度を保ち、ネアが再生しかけた白い層の隙間へ進路を合わせる。

 正面へ伸びた長い光の塊が、セトの行く手を塞いだ。


『減速する!』


 シアが赤い四翼を進行方向へ向け、火を放つ。

 速度が急に落ち、伸びてきた白光がセトの目前を横切った。


『下へ入ります!』


 ネアが黒い翼で進路を落とす。

 白い塊の下側を抜けた瞬間、シアが再び火を放った。

 セトは一気に距離を詰める。

 背後から散乱光が追ってきたが、七つの黒い分霊核がその流れを外へ曲げる。

 前方の薄い層は赤い七核が焼き開いた。


「あと少し!」


 額の表面が迫る。

 この速度のままでは、狙った位置を通り過ぎてしまう。

 シアが逆向きに火を放ち、ネアが横へのずれを抑えた。

 推進力を一気に失わせるのではなく、着地までのわずかな距離へ減速を合わせる。

 セトは二本の剣を握ったまま、足を額の広い面へつけた。


「今だ!」


 右手の極炎が赤い光へほどけた。

 左手の絶光も黒い光へ変わる。

 シアとネアが、それぞれ人型へ戻った。

 赤い四翼が右へ、黒い四翼が左へ広がる。

 七つずつの分霊核も二人の周囲へ分かれた。

 八翼が一体として飛んでいた時間は終わった。

 だが、セトが予定した位置には、三人がそろっていた。

 ほんの少し減速が遅れていれば額を越え、速すぎれば閉じかけた外層へぶつかっていた。

 八翼の機動性が高くても、どこへ止まるかを選ぶのはセトの仕事だった。


◆ 見えない三体目


 光の精霊王から見れば、額へ降り立った一つの八翼が、赤と黒の二体へ分かれたように見えた。

 その二体が、着地と同時に左右へ飛ぶ。

 巨体の前面はシアとネアを追い、赤い火と黒い線が放たれる方向へ向きを変えた。

 三体目は、標的として認識されていない。

 額へ残ったセトからは、四翼のような大きな力が出ていなかった。


 シアは頭部の右側を離れ、巨大な肩の上まで駆け抜けた。

 七つの赤い分霊核がシアを追い、八門の火が側面を焼く。

 ネアは反対へ回り込み、頭部の左から巨体の背後へと高度を変えた。

 黒い七核が放つ線が原光を奪い、再生の流れを断つ。

 二人は額の近くに留まらない。

 巨体を挟んで広く位置を変えるたび、光の精霊王の照準は左右へ引き裂かれた。


 収束光がシアを追う。

 シアは急上昇して射線を外し、飛び出した先から火を返した。

 ネアには散乱光が広がる。

 ネアはその線を外へ曲げながら反転し、今度は頭部の下方へ回る。

 大きな四翼が二人を追って動き、巨体の前面まで向きを変えた。

 敵の注意は、目立つ二つの精霊王へ向けられている。


 その中央で、セトは原光の流れを見た。

 四翼を追って太い流れが右へ左へ動くたび、額の内側に通じる筋が浮かび上がる。

 セトは右手へ白刃を、左手へ黒刃を作った。

 二人が離れたことで、外側の攻撃が中央から遠ざかる。

 狙いどおり、セトのいる額へ収束光は向けられていなかった。

 八翼だった三人が、それぞれの役割で動き始めた。

 セトは人型の原型へ通じる流れを見失わないように、そのまま前へ踏み込んだ。



※第56話「双天・星華」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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