(四)双天・星華
◆ 死角
セトが下へ進路を取る。
光の精霊王の額が下を向き、収束光を集めた。
「上だ!」
シアが赤い四翼の推進を一瞬弱め、逆方向へ火を放って減速する。
ネアが黒い四翼で進路を上へ折り、シアがすぐに再加速した。
白い光が、それまで八翼の向かっていた下方へ伸びる。
セトはその脇をかすめるように通り、巨体の上へ飛び出した。
敵が上を追った時には、もう右へ向きを変えている。
巨体の四翼から散乱光が広がった。
二本、三本と線が重なり、前方の空間を細かく区切る。
大きく逃げれば外へ出られる。
しかし、それでは敵から遠ざかる。
『左前方に隙間があります』
「見えた!」
セトは身をひねり、二本の白い線の間へ飛び込んだ。
ネアが黒い翼で軌道を指一本分ほどずらす。
一本は背をかすめ、もう一本は足元を抜けていく。
シアは前を塞ぐ細い光だけを焼いた。
八翼は進む方向を変えず、白い網の向こうへ飛び出す。
光の精霊王が次の砲撃を放つ頃には、セトとの距離がまた縮まっていた。
『これ、蚊が急に消えるアレか?』
『消えてはいません』
シアの妙な例えにネアが答える。
セトは笑う余裕こそなかったが、言いたいことは分かった。
敵から見れば、追ったはずの小さな相手が射線のすぐ脇から抜けてくる。
速度では八翼が上回り、機動ではさらに差がついていた。
光の精霊王は全身の表面を白く光らせた。
前後を問わない広い放出が始まる。
これには身体を少しずらすだけでは足りない。
『薄い場所を焼く!』
『右下です。そこだけ流れが遅れています!』
シアが火で白い壁を割り、ネアが黒い翼で開いた隙間へ進路を導く。
セトは二本の剣を身体へ寄せ、細い出口をくぐった。
直後、額の向きが大きく外れる。
巨体が八翼を追っている間に、八翼は頭部の背後へ移っていた。
「今だ」
追尾を一瞬失った相手へ、十六門をそろえる機会が生まれた。
◆ 双天・星華
十四個の分霊核がセトの周囲へ広がった。
赤い七核は光の精霊王の前面から四翼の根元まで、破壊する部位に射線を分ける。
黒い七核は、それらの部位へ原光を送り込む再生経路を捉えた。
極炎と絶光も射点に加わり、赤八門と黒八門、計十六門。
赤が組織を破壊し、黒が再生に必要な流れを断つ。
同じ部位を撃つのではなく、破壊箇所とその再生経路を対にして狙う。
どれか一つが遅れれば、相手はその隙に原光を集めて再生してしまう。
セトは二つの剣を握り、流れを別々に保つ。
光の精霊王が反応した。
巨体の四翼が周囲の原光を集め、白い壁を厚くしていく。
さらに、複数の場所で収束光が生まれた。
十六門の照準がそろう前に、その一つがセトへ伸びる。
『防御は私が!』
ネアが黒い翼と分霊核で、光の流れを外側へ曲げた。
しかし、白い一本がなお肩へ迫る。
『まだ撃つな!』
シアが赤い一翼の火で軌道をわずかにずらす。
セトは身体を傾け、肩のすぐ脇を通す。
大きく避けなかったため、十四核の配置は崩れない。
流れてきた衝撃は、水の精霊回路が別々の道へ逃がした。
赤い力と黒い力を混ぜない。
どちらも止めない。
流入量を自分で調整し、十六門のすべてへ道を開く。
「双天!」
極炎と絶光の切っ先が、同時に巨体へ向いた。
十四個の分霊核が位置を定める。
通常なら、八門を撃つ者が二人いるだけだ。
しかし今回はセトを介し、赤と黒の発射を同じ拍に乗せる。
片方が命中した後にもう片方が撃つのではない。
十六の作用を一度に成立させるための合図だった。
赤と黒の線はまだ放たれない。
三人の意識が同じ一瞬へそろった。
「星華!」
十六門から、火と月の力が同時に放たれた。
その一撃は、二人が別々に使っていた八門を、初めて一つの目的へ束ねたものだった。
※第56話「双天・星華」は全七回です。
続きます。
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