(三)核を探す
◆ 頭部の内側
セトは試射の結果を頭の中で並べ直した。
火の八門では、広い範囲が一度に崩れた。
月の八門では、崩れた場所の原光が抜け、再生が止まりかけた。
門数を減らして撃つと、巨体は射点へ防御を集め、そこから反撃してきた。
次の攻撃は同じ場所へ重ねない。
必要な位置を確かめるためだけに射点を使った。
『あとどれくらい削ればいいんだ?』
『まだ元気いっぱいという感じですね』
「外側を削るだけじゃ終わらない」
光の精霊王の表面は焼かれても戻り、黒い線を振り切っても別の場所から力が補われる。
しかし、補う方向には偏りがあった。
身体の右でも左でも、傷口から戻る太い流れは頭部の内側へ集まり、そこから各部へ送り返されていた。
頭部がすべての力を作っているとは限らない。
それでも、流れをまとめる中心になっている。
「やっぱり頭だ」
『最初に考えた場所ですね。核はあの中に?』
「まだ見えていない。でも、あそこが流れの中心だ」
セトはわずかに進路を変え、巨体の額に相当する場所を正面から確かめた。
周囲より強い白光が集まる。
攻撃を受けると、別の部位より先に補修が始まる。
守り方にも、核の候補という見立てと一致する部分があった。
ただし、中心にあるからといって、そこを直接狙えば終わるとは限らない。
頭部の表面は厚く、全身からの原光が補修へ回る。
遠距離から一か所だけを撃ち続けても、核へ届く前に塞がれてしまうだろう。
『だったら、頭ごと消すか?』
「今の再生速度じゃ難しい。まず外側を崩して、中へ入る」
『誰が?』
「俺が行く」
シアとネアから、ほぼ同時に反応が返る。
『セト一人でか?』
『私たちが剣のままでは、内側で別々に動けません』
「だから二人は人型に戻って、頭の左右から押さえてくれ。その間に俺が進む」
巨大な頭部の前面が、ゆっくりこちらへ向いた。
侵入するための一瞬を、外から作らなければならなかった。
◆ 一度だけ
『十四個の分霊核と、私たち二人。十六門ですね』
「そうだ」
『セトへの負荷は?』
「一発ならいける。二発撃てと言われたら厳しい」
『一発ならいけると理解した!』
シアが即答する。
ネアはセトの胸を流れる原光を確かめていた。
八門ずつの試射で負荷を測ったとはいえ、十六門を同時に一つの流れへ束ねるのは初めてだ。
水の精霊回路が柔軟でも、力そのものを消せるわけではない。
『撃ったあとも、相手が止まるとは限りません』
「そのために二人には左右から攻撃を続けてもらう。俺は額へ入る」
『私たちが精霊剣をやめたら、セトはこの空間を動けるのですか?』
「短時間なら可能だ。回路に残る力と、白刃と黒刃で進む」
『つまり、すぐ終わらせる!』
『終わらなければ、すぐ離脱してください』
言葉の直後、巨体の額が白く光った。
収束光がまっすぐ伸びる。
セトは撃たれてから遠ざかるのではなく、射線が定まる前に進路を少し外した。
ネアがその差を広げ、シアが後方へ火を放って前進を保つ。
白い線が脇を通り過ぎ、背後で散乱した。
『上、今なら通れます』
ネアが示す隙間へ、セトが身体を入れる。
敵は再び照準を向け直すが、八翼はすでに前方へ抜けている。
十六門を撃つには、敵の攻撃へ正面から付き合わず、こちらが狙う瞬間を選ぶ必要があった。
撃つ一瞬を作れたとしても、その直後は三人の位置を分けることになる。
だからセトは、砲撃の威力だけでなく、着地後に二人が頭部の左右へ移れる場所を探していた。
◆ 名前
『十六門砲撃の名前を先に決めませんと、撃つ瞬間に合わせられません』
ネアが絶光から告げた。
セトは右手の極炎、左手の絶光を順に見た。
つい先ほどまでは、互いを消すために八門を向けていた二人だ。
今は一つの巨体へ、十六門を合わせようとしている。
『名前がいるのか?』
『八門には付けたのですから、十六門だけ何もない方が不便でしょう』
「双天・星華」
『悪くない!』
『では、それでいきましょう』
セトは改めて前方を見た。
光の精霊王は、額に相当する面をこちらへ向けている。
その四翼からも、身体の各所からも白い原光が集まり始めた。
相手が攻撃をそろえる方が早ければ、十六門を構える前に撃ち抜かれる。
セトは剣を構えたまま、敵の前面から離れる進路を選んだ。
「可能な限り、死角へ入る」
『あれに死角があるのか?』
「前と後ろは残ってる。気配は分かっても、あの大きさじゃ向きを変えるのは遅い」
『一瞬でも見失わせればいいのですね』
「そうだ。その時に全部をそろえる」
セトはシアへ加速を、ネアへ進路の制御を任せた。
八翼が開く。
白い額が正面に見えていた次の瞬間、セトは巨体の下方へ回り込み始めた。
名前は決まった。
残るのは、その名を同時に放てる場所までたどり着くことだった。
十六門を一度に放つ以上、準備に時間をかけていられない。
シアとネアはそれぞれ核の位置を調整しながら、セトが合図を出す瞬間へ意識をそろえていく。
※第56話「双天・星華」は全七回です。
続きます。
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