(二)二つの八門
◆ 月天・散華
七つの黒い分霊核と絶光から、黒い線が伸びた。
ネアが八つの射点を、火の開けた穴とその周辺へ割り振る。
『シアの命名にならうなら、月天・散華でしょうか』
八本の黒い線が巨体を貫いた。
ある線は、穴へ集まり始めた原光を奪う。
別の線は組織を分解し、残る線が再生のために伸びた流れを縛る。
光の精霊王の動きが鈍った。
開きかけた巨大な四翼も、途中で止まりかける。
赤い火で壊れた場所が、元の白い形へ戻らない。
『やっぱり嫌な技だな』
シアの声には、かつてこれを受け続けた実感があった。
『受け止めれば力を持っていかれる。避けても、周りの流れを縛られて動けなくなる』
『シアは力を出して抜けようとするので、特に相性が悪かったですね』
『出さなければ、そのまま動けないだろ!』
『だから相性が悪いと言っています』
『わたしの火と比べて、どっちが嫌だった?』
『比べる必要がありますか?』
『ある』
『どちらも受けたくありません』
言い合う間にも、巨体の奥で白い光が膨れ上がった。
光の精霊王が取り込んだ原光を一気に押し出す。
縛っていた黒い線が一本ずつ引きちぎられ、束縛から解けた四翼が散乱光を放った。
セトはその線の密度を見て、広く逃げずに抜けられる場所を選ぶ。
ネアが進路を細く曲げ、シアが前に残る白い線だけを焼く。
八翼は散乱光の隙間を抜け、速度を保ったまま次の位置へ移った。
ネアの拘束が破れたため敵の動きは戻ったが、その間に火の開けた穴は完全には塞がっていない。
拘束を続けることはできなくても、破壊の効果を残す時間は作れていた。
◆ 二つの八門
『さすがに、あの大きさを止め続けるのは無理のようですね』
「でも、効いている」
火が壊した場所を、月が戻さない。
シアの八門は巨体の広い範囲を一度に焼き崩し、ネアの八門は原光を抜いて再生を遅らせる。
かつて二人は、それぞれの技で互いを倒そうとしていた。
今は同じ敵の弱点を探している。
「八つ全部を使った時の負荷も見えた。次は数を減らす」
『少なくすると、威力は落ちるぞ?』
「壊すだけならそうだ。でも、どこから再生して、どこから撃ち返すのか見たい」
『分かりました。観測しやすい位置を取ります』
ネアが黒い四翼をわずかに動かす。
八翼は白い巨体の正面から、右側面が見える位置へ滑るように移った。
シアは加速の出力を落とし、砲撃の照準が定まる間だけ相対位置を保つ。
停止して待つわけではない。
光の精霊王の照準が合う前に、次の進路へ抜けられる距離を残した。
『何門使う?』
「赤を三門。右側だ」
三つの赤い分霊核から火が走り、巨体の右側を焼いた。
光の精霊王は右へ収束光を向ける。
「黒を四門。左から、少し遅らせろ」
火の開けた傷へ防御が集まる前に、四本の黒い線が別の角度から入った。
左側の原光が抜け、右に向かっていた収束光が途中で乱れる。
セトたちは、その下へ抜けた。
撃った位置へ反撃が返る前に移動したため、白い収束光はもう八翼を捉えていない。
撃つ門数を減らしたことで、相手が力を移す順番まで見え始めていた。
◆ 三門と四門
光の精霊王は、先ほどより早く四翼を開いた。
セトが火の射点をそろえただけで、その方向へ原光を集めている。
「もう対応したのか」
『同じ場所へ撃っても、今度は通りにくいな』
「なら、赤を二門。黒を一門だけ正面へ」
ネアが黒い一本を放つ。
巨体はその線へ防御を集めた。
わずかに遅れて、横からシアの二門が貫く。
焼けた組織が白い塊となって吹き飛んだ。
光の精霊王は、その塊までセトへ押し返してきた。
「崩れた部分まで飛ばしてくるのか!」
『そのまま返す!』
シアが火を横からぶつけ、白い塊を砕く。
だが、砕けた光の向こうには新しい収束光があった。
直撃まで、もう大きく逃げる時間はない。
『少しだけ下へずらします』
ネアが黒い四翼で進路を下げ、セトは身体を反らす。
白い線は胸のすぐ上を抜けていった。
その瞬間、シアが赤い翼で後方へ火を放つ。
八翼は減速せず、射線の先へ飛び出した。
敵から見れば、回避したはずの相手が以前より近くにいる。
背後で光が散乱した。
黒い三核が後ろへ回り、迫る細い線を左右へ分ける。
残る一本だけを極炎で切り払い、セトは前進を続けた。
衝撃が右腕から精霊回路へ戻ってくる。
負荷が収まるまでの時間も、セトは見逃さない。
「まだいける」
『無理をしていませんか?』
「無理をするのは、まだ先だ」
大きく逃げるほど、再び近づくための時間が必要になる。
最小限でかわして前へ出れば、その時間を攻撃へ使える。
セトは八翼の機動性を、ようやく自分の剣の間合いへ結びつけ始めていた。
※第56話「双天・星華」は全七回です。
続きます。
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