(一)八翼の初動
◆ 八翼の初動
光の精霊王の額に相当する領域が白く膨らんだ。
収束した光が、まっすぐセトへ向かってくる。
セトは回避する方向を見定めた。
ネアが黒い四翼を動かし、身体を射線からわずかに横へずらす。
白い光が肩の脇を抜けた直後、一本だった線が無数に分かれた。
『散乱します。右上に隙間が』
七つの黒い分霊核が、白い線のいくつかを外側へ曲げる。
だが、すべてを逸らす必要はなかった。
セトは二本の線の間へ身体を傾けた。
間隔は身体が通る分しかない。
黒い四翼が軌道をほんの少し持ち上げ、八翼は狭い空間を抜ける。
『残ったものは焼く!』
シアが赤い翼から火を放った。
前を塞ぐ一本が焼き払われる。
その反動も推進力となり、セトは減速せずに飛び出した。
肩をかすめた光から衝撃が入り、水の精霊回路が形を変えて受け流す。
シアとネアの力は二本の剣の手前に留められ、必要な分だけがセトへ流れ込んでいた。
『今の隙間、わたしたちのどちらかだけなら通れなかったな』
『八翼でも、止まっていれば同じです』
「止まるつもりはない」
セトが巨体の側面を指す。
シアが速度を上げ、ネアがその速さを保ったまま進路を曲げた。
敵の次の射線が前方に生まれた時には、八翼はすでに別の角度から近づいている。
以前なら、あれほど広がる光は一度遠くへ退いてからやり過ごすしかなかった。
今は射線を抜けるための小さな移動が、そのまま接近のための動きになる。
速いだけではない。
加速と方向の制御を別々に行える。
三人は、八枚の翼を初めて一つの飛行として動かしていた。
◆ 炎天・星雨
『まずはどうする?』
「一人ずつだ。二人が今、どこまで力を出せるか確認したい」
『なら、わたしからだ!』
七つの赤い分霊核がセトの右側に広がった。
極炎の刀身にも同じ火が集まる。
八つの射点は、巨体の右半分から頭部まで、それぞれ異なる位置を捉えた。
光の精霊王が巨大な四翼を動かし、正面へ原光を集め始める。
『炎天・星雨!』
八本の火が同時に放たれた。
細く絞られた炎は赤い光線のように宇宙を走り、光の精霊王へ届く。
巨体が一本を避けようと身を傾けた。
その動きでほかの射線からは外れられない。
七本が表面を貫き、遅れて残る一本が動いた場所へ食い込んだ。
八つの穴の奥で火が広がり、内部の白い組織が崩れる。
しかし、周囲から原光が押し寄せ、空いた穴を埋め始めた。
「もう戻すのか!」
『でも、効いてる!』
再生途中の穴から、細い白光が撃ち返された。
シアは赤い分霊核をそれぞれ動かし、複数の反撃を核へ引きつける。
その間にネアがセトの進路を曲げた。
八翼は白い光の間を斜めに抜け、巨体の反対側へ移る。
火が壊した場所だけでなく、敵がどこから再生し、どの方向へ反撃するかも分かった。
分霊核を追わせた白光は、最初にセトのいた場所を通っていった。
射点を動かすだけでも、相手の狙う方向をずらせるらしい。
セトは八つの穴が塞がる速さを見ながら、次に使う力を考えていた。
◆ 受けた側
『受ける側から見ると、相変わらず逃げ場のない攻撃ですね』
絶光からネアの声が届く。
セトは光の精霊王から距離を保ちながら、八本の火が残した跡を見た。
『一本を避けても、ほかの七本があります。守りを一か所へ集めれば、別の場所を貫かれます』
『一か月も受け続けた感想が、それか?』
『実際に受けたからこその感想です』
『効いてたのか?』
『かなり』
短い返事にシアが満足した気配が伝わる。
以前の二人は、相手を消すために同じ攻撃を向け合っていた。
今は隣り合う剣として、その威力を確かめている。
「撃つ側の負荷も分かった」
セトは右腕から胸へ戻る火の流れを確かめた。
八門へ一度に通す反動は大きい。
だが、ヴァルナが再構築した水の精霊回路は負荷のかかる場所に合わせて形を変える。
一か所だけが焼き切れるような状態にはなっていない。
それでも、負荷が消えたわけではなかった。
精霊剣となった二人が引き受けた力まで、セトのものになるわけではない。
自分の身体を通る分と、翼や核へ循環する分を見失えば、ここでの強さも長くは続かない。
「もう一度、同じものを撃てるか?」
『撃てる!』
「分かった。続けて撃つ必要はない。次はネアだ」
『はい。今度は戻る流れを見てください』
七つの黒い分霊核が、まだ再生を続けている巨体を捉えた。
セトは極炎と絶光を持ち直す。
二人の力は混ざらない。
だからこそ、どちらがどの負荷を生むかを分けて確かめられる。
※第56話「双天・星華」は全七回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/




